主張

首相の賃上げ要請 官民協調で機運を高めよ

岸田文雄首相が経済界に、来年の春闘で賃上げを検討するよう求めた。首相が目指す「成長と分配の好循環」の実現には着実な賃上げが欠かせないとの判断からだ。

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の世界的な感染拡大が懸念されている。

わが国の産業界でも、先行きが不透明だとして、賃上げに消極的な姿勢が強まることも予想される。

しかし、コロナ禍でも業績が好調な企業は多い。そうした企業が賃金を引き上げるのは当然だ。将来に向けた人材投資としても着実な賃上げは不可欠である。

民間企業に賃上げを促すためには、政府の後押しも重要だ。優遇税制だけでなく、生産性を高める設備投資などに対する支援にも積極的に取り組むべきだ。

首相は自らが議長を務める「新しい資本主義実現会議」に出席した経団連など経済3団体のトップに対し、業績がコロナ禍前の水準に回復した企業には「3%を超える賃上げを期待する」と強い期待感を表明した。

これに対し、経団連の十倉雅和会長は「一律の賃金引き上げではなく、できるところは前向きにやっていく」と応じている。業績が回復していない企業は事業継続と雇用維持を最優先するという。経団連が来月に示す春闘方針にもこうした姿勢を盛り込む構えだ。

連合は定期昇給とベースアップを合わせて、4%程度の賃上げを要求する方針だ。具体的な賃上げ水準は企業業績に応じて労使が協議すべきだが、個人消費の活性化には継続的な賃上げが不可欠との認識を労使で共有したい。

政府・与党は来年度の税制改正で、賃上げ企業に対する優遇税制の拡充を検討している。ただ、法人税を納めていない赤字企業は優遇が受けられないため、そうした企業には補助金などでも対応したい。使い勝手を良くして多くの企業の利用を促すべきだ。

企業がデジタル化などで生産性を高め、収益増につながる事業環境の整備も政府の役割だ。そのうえで官民で賃上げに向けた機運を醸成し、慎重な企業マインドの転換を図りたい。

安倍晋三元首相が主導した「官製春闘」では、毎年2%以上の賃上げを達成した。継続的な賃上げはコロナ禍からの回復にも資することを経済界は銘記すべきだ。