止まらない半導体不足の悪循環は、こうして起きている

シンプルなICも足りない

こうしたなかソニーと世界最大のチップ受託生産メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)は、70億ドルを投資して旧式のチップを生産できる工場を建設すると発表したが、チップの生産開始は24年末になるという。インテルもいくつかの最先端の工場の新設に投資しているものの、それらが稼働し始めるのは24年だ。

最先端のチップ生産に必要な極紫外線リソグラフィ装置を製造しているのはオランダのASMLの1社のみであり、しかもASMLは需要を満たすだけのスピードで装置をつくれないと、ヨフィーは指摘する。

もうひとつの問題は、すべてのチップが同じようにはつくられていないということだ。主に電力制御用IC(集積回路)、マイクロコントローラー、センサーなどの単純な部品が足かせとなっている。

これらのデバイスは、スマートフォンやゲーム機に搭載されているCPUやGPUに比べるとはるかにシンプルで、複雑さを必要としない古い製造方式で作られている。ところが、電子レンジや医療機器、玩具など、あらゆる電子機器に搭載されているのだ。

電子部品の購入者と販売者をマッチングするSourceabilityのバイスプレジデントのジョシュ・プッチは、多くの製品に使われている電力制御用ICは、かつて1ドルだったものが、いまでは150ドルで販売されていると指摘する。

またIC Insightsによると、電力制御用ICのリードタイムは4〜8週間から24〜52週間に伸びているという。これらのデバイスが不足していることから、入手困難な旧式チップ製造装置の需要が高まっているのだ。

一部顧客の「二重発注」という問題

ガートナーは、19年第2四半期に76.5%だった半導体ファウンドリーの稼働率が、21年第2四半期には95.6%になったと推定している。同社アナリストのガウラフ・グプタによると、メンテナンスのために多少のダウンタイムが必要であることを踏まえれば、これは実質的に工場の稼働率が上限に達していることを意味するのだという。

チップメーカーのGlobalFoundriesのCEOのトム・コールフィールドは今年10月、同社のチップが23年分まで完売していると発言している。最も需要の高い部品のいくつかを製造しているアナログ・デバイセズの最高財務責任者(CFO)は8月、当時の受注残が翌年度分(今年10月以降)にまで及んでいると投資家に説明していた。

一部の顧客が「二重発注」している可能性がある点も、チップメーカーの課題になっている。つまり、供給が途絶えた場合に備えて必要以上の部品を購入することで、将来の需要予測が歪められているのだ。製造業とグローバルサプライチェーンを研究するハーバード大学教授のウィリー・シーは、「二重発注による一時的な品不足が事態を悪化させています」と指摘する。

アナリストによると、チップは利益率が低いことや、需要が急増したあとで急激に減少する周期性があることから、チップを製造する企業が新しい工場への投資に消極的になっている可能性があるという。これらの企業は将来的にチップが供給過剰になり、価格が低下することを懸念しているのだ。

「半導体産業の歴史を振り返ると、収益性や価格の急上昇のあとには壮大な下降局面があります」と、ハーバード・ビジネス・スクールのヨフィーは言う。「わからないのは、この継続的な需要の増加が今後も続くかどうかです」

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