奈良小1女児殺害・父親講演詳報㊥

犯人からメール「次は妹だ」不安と恐怖に…

有山楓ちゃんの遺体が見つかった現場を調べる奈良県警の捜査員=平成16年11月18日、奈良県平群町(本社ヘリから)
有山楓ちゃんの遺体が見つかった現場を調べる奈良県警の捜査員=平成16年11月18日、奈良県平群町(本社ヘリから)

平成16年11月に誘拐、殺害された奈良市立富雄北(とみおきた)小学校1年の有山楓(ありやま・かえで)ちゃん=当時(7)=の父親(47)が5日、公の場で初めて講演した。17年前、昨日まで一緒に過ごした娘の突然の行方不明。警察から連絡を受け、変わり果てた姿に感情を失った。悲嘆にくれる中で届いたメールに記された「次は妹だ」のメッセージ。恐怖にさいなまれる日々が続いた。主な内容は次の通り。

とにかく無事で…

事件前日の晩ごはんは、すき焼きだった。食後にはぜんざいを食べた。

「遅いから早く寝なさい」と言うと、「はーい、おやすみなさい」と言って妹と2階へ上がっていった。幸せな日々がずっと続くものだと思っていたが、この言葉が私と楓との最後の会話となった。

11月17日、仕事中、楓が行方不明になったと連絡を受けた。

仕事を早めに切り上げ、急いで電車に乗った。母親から「友達の家や楓がいそうなところにどこにもいない」「自転車は家に置いたままだ」と再度連絡があった。

学校の先生や友達のお母さんが一緒になって探していたがどこにも楓の姿が見つからず、警察に連絡することにした。私は電車を下車した後、楓が通ったといわれる道を捜し回った。

とにかく無事でいてくれたらいい。早く会いたい。ただその思いだけだった。

遺体と対面、頭が真っ白に

日付がかわったころ、警察の方から「楓らしき子が見つかった。でも亡くなっている形で」と言われた。午前2時ごろ奈良西署へ向かった。

見たこともない楓の表情が目の前にあらわれた。そこからは頭が真っ白になって、感情を失った。

午前5時ごろ、奈良西署から警察の車で自宅へ帰った。自宅近くの大通りはタクシーやマスコミの車で埋め尽くされていた。自宅に着いた際、警察の方から「扉を開けるから走って、入って」と言われ、一目散に玄関に向かった。

振り向いてもいないのに暗闇の中、大勢の足音と服が擦れる音が聞こえてきた。あのときの記憶、感覚は今でも恐怖でしかない。

家の中に入っても、窓ガラスの前を通るたびにフラッシュがたかれ、家の中なのに腰をかがめて動いた。マスコミのカメラ、フラッシュが怖く、まるで自分が犯人かのような気持ちになった。

テレビをつけるとどのチャンネルも事件のニュースが流れていたが、楓が見つかった場所を見ても他人事(ひとごと)のようで、まったく自分の娘が被害にあったなんて思わなかった。

もう動かない現実に涙

犯人が逮捕されていなかったので、葬儀の段取りの間に警察とのやり取りが続いた。通夜が始まるまでの時間はあまり楓のそばにいてやることができなかった。自分が倒れてはいけないという思いで少しでも食事をとろうとしたが、のどを通らず、横になってもほとんど寝れていない状態だった。

有山楓ちゃん(遺族提供)
有山楓ちゃん(遺族提供)

楓と最後に過ごす時間、楓に心配させてはいけない、笑顔で見送ってあげよういう思いで通夜、告別式にのぞんだ。通夜のとき、楓のダンス発表会の映像が流れると、楓がもう動かないんだという現実に戻され、涙があふれだした。

告別式が終わった当日は(楓の)妹を実家に預け、夫婦2人で自宅に戻った。まだ犯人も逮捕されていないということで、家の中の静けさと夜の暗闇に恐怖を覚えた。

翌日からは毎日担当の警察の方が来られ、犯人逮捕に向けての取り調べが始まった。

犯人から連絡

マスコミが自宅に来ているということは犯人も私たちの自宅を知っているのかもしれない、という思いにかられていた。特に夜は外での少しの物音でも不安で、恐怖を感じた。

12月14日、日付が変わったころ、妻の姉から、少し前に楓の携帯から着信があったと連絡があった。その後すぐ警察へ連絡し、私は自分の携帯から楓の携帯へ電話をかけた。楓の携帯は生きている。これで犯人を逮捕できるという思いだった。

数回かけたところでつながったが、すぐ切られた。もう一度かけなおしたが、3、4回のコールのあと、楓の携帯とつながった。私の問いかけに何も返答がなく、たばこをふかしたのか笑っていたのかはわからないが、「ふう…」という音が聞こえたのちに切れてしまった。

しばらくして妻の前の携帯を開いたときに、1件のメールが届いていた。

「次は妹だ」という言葉と楓の画像、楓が家の前で撮った妹の写真が添付されていた。なぜ楓だけでなく下の娘まで奪おうとするのか。なぜ私たちを、家族をこんなに苦しめるのか、開いた瞬間、不安と恐怖へ突き落された。

絶対下の子は守ってみせると自分に言い聞かせ、それからの不安な日々を過ごした。

犯人逮捕後は喪失感におそわれた。「仕事のことはなにも気にせず休め、落ち着いたら戻ってこい」という勤務先からの声かけがありがたかった。

■奈良小1女児殺害事件

平成16年11月17日、奈良市立富雄北小1年の有山楓ちゃんが下校中に行方不明となり、翌日に奈良県平群町で、遺体で見つかった。県警は同年12月、元新聞販売店員の小林薫元死刑囚を逮捕。奈良地裁が18年に死刑を言い渡した。弁護側の控訴を本人が取り下げて刑が確定。本人はその後再審請求したが、最高裁は特別抗告を棄却、25年2月に刑が執行された。