なんだか最近、仕事に対する達成感が得られない。イライラするし、体重も増えた-。コロナ禍で生活が変化するなか、心身に不調を抱える中高年男性が増えているという。加齢を理由に見過ごしがちだが、背景に男性ホルモン低下による「男性更年期障害(LOH症候群)」が隠れているかもしれないと、専門家は指摘する。どんな症状が男性の更年期障害にあたるのか。チェック項目とともに紹介する。
男性更年期障害は「病気」
泌尿器科医で順天堂大学大学院の堀江重郎教授は、順天堂医院泌尿器科のメンズヘルス外来で診療を担当し、日本メンズヘルス医学会理事長も兼ねている。近著に『LOH症候群』(角川新書)がある。
「男性更年期障害は医学でLOH症候群といいます。男性ホルモンであるテストステロンが急激に減り、心身に深刻な症状が起きる病気です」
性ホルモン低下が原因という点で、女性の更年期障害と同じだが、すべての人が閉経を迎える女性にとっての更年期は、遺伝子に備わった「生命現象」であるのに対し、男性の場合、時期は一定せず、すべての人がなるわけではない「病気」なのだ。
「男性は30代でも80代でも、いつでも誰でも発症する可能性はある。症状が続く期間も長く、放置して治るものではありません」(堀江教授)
70歳くらいまである「性機能」が目安
男性ホルモンのテストステロンは心と身体の両方に作用する、男女問わず人間にとって基本的なホルモンだ。(詳しくは、心と体に変調が…「国際男性デー」に考える男性ホルモンの働きと影響)
テストステロンが減少した男性には、心身にさまざまな症状が起きる。
肉体的には筋力低下、内臓脂肪の増加、疲労感、頭痛、めまい、性機能低下など。精神的には意欲低下、いらだち、不安感、性欲減少などだ。(図参照)
「特に気にしてほしいのが性機能の低下です。年齢とともに衰えるものですが、一般に70歳くらいまでは性欲や朝立ちはあるものです」
堀江教授が示した男性更年期障害の可能性を測る10項目のリストは次の通り。
①性欲が低下した
②元気がなくなってきたような気がする
③体力、もしくは持続力が低下した
④身長が低くなった
⑤毎日の楽しみが減ったように感じる
⑥もの悲しい気分だ、あるいは怒りっぽい
⑦勃起力が弱くなった
⑧最近になり、運動能力が低下したように感じる
⑨夕食後にうたた寝することがある
⑩最近、仕事がうまくいかない。仕事の能力が低下したように感じる
①と⑦の両方が当てはまる場合、または3つ以上の項目に該当する場合は、男性更年期障害の疑いがあるという。
専門外来の一覧は、日本メンズヘルス医学会のホームページで紹介されている。
パートナーの目で兆候をつかんで
男性更年期障害の認知度はまだ低く、男性自身がこの病気に気づくことは難しい。カギとなるのは、配偶者などパートナーの助言だ。周囲の気づきから診察に結びつくケースは少なくないと堀江教授はいう。
堀江教授によると、パートナーが兆候をつかむポイントは①ベルト、②夜中のトイレ、③笑わない-の3点だ。
体重が増えて、ベルトを緩めるようになった。これまで就寝中にトイレに行かなかったのに、最近必ず夜起きるようになった。こうした身体的な変化の背景に、テストステロン低下が隠れていることがある。
さらに精神面の変化で見過ごせないのは、笑顔の消失だ。
笑顔が出ないのは緊張状態にあることを意味する。テストステロンはリラックスしたときに分泌が促されるため、男性更年期障害になると笑顔が減るのだという。
「テストステロンの分泌には社会的な環境が作用します。分泌を上げるのに効果的なのは、男性自身が認められる場所を持つことです。家族から愛され、リスペクトされることで分泌量も上がります。男性更年期障害の可能性があるときには、パートナーとして、男性を持ち上げて元気にさせてあげてほしいです」
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人生の節目節目に、身体的、精神的な影響をもたらす「性ホルモン」の作用に注目が集まっています。性に関する科学的な知識をもつことは、豊かな人生につながります。家庭で、職場で、学校で-。生物学的に異なる身体的特徴をもつ男女が、互いの身体の仕組みを知り、不調や生きづらさに寄り添うことを目指した特集記事を随時配信していきます。