過去何度も日本列島を襲った大地震に人々はどう向き合い、また被災後の時間をどう生きているのか。関西の老舗劇団「関西芸術座」が17、18両日に、大阪市内で平成7年の阪神大震災で苦闘した新聞社の記録を原作にした作品を上演する。生身の人間が目の前で演じる演劇。映像にはないその力で、記憶の風化と関心の薄れに立ち向かおうとしている。
阪神大震災、地元紙の苦闘
関西芸術座が上演するのは「ブンヤ、走れ! ~阪神・淡路大震災 地域ジャーナリズムの戦い~」。新聞記者を意味する隠語「ブンヤ」の通り、当時の本社があったビルが全壊し、新聞発行が窮地に陥った神戸新聞社の苦闘をつづった「神戸新聞の100日」(神戸新聞社著/角川ソフィア文庫)を原作に、生活部の新人女性記者の目から見たオリジナルストーリーを書き下ろした。
社屋の被災で機能がまひする中でも、記者や販売店は新聞発行を使命として奔走する。目の前の悲劇を伝えるだけでなく、地元紙の生活部記者だからこそ今書くべき記事とは何なのか-。のちに論説委員となった女性記者が職業体験にきた中学生に、新人時代の震災体験を振り返って語る形で物語が始まる。
女性記者を演じるのは震災の4カ月後に生まれた菊地彩香さんだ。演出を務める門田裕さん(66)は「震災を知らない世代も増えている。風化させないために、関西の劇団として震災を舞台にしておく必要があるとずっと思っていた」と思いを明かす。
震災から来年1月で27年になる。これまで舞台化に踏み切らなかったのは、「早すぎると生々しくて被災者が傷つく恐れもある」から。門田さん自身は兵庫県尼崎市出身で、震災当時も同市にいた。「デリケートな題材です。でも2年前にこの本と出会い、今なら震災を客観的に描けると思いました」
震災が起きた平成7年は3月に地下鉄サリン事件も起きた。門田さんは「全国紙が一気にサリン事件取材に傾く中、神戸新聞は地元紙として被災者目線での取材を続け、生活に寄り添う情報を発信し続けた。その熱意や使命感に驚き、感動しました」と話す。
「神戸新聞の100日」は過去にテレビドラマにもなった。「舞台は役を演じる人間と観客の生のコミュニケーション。映像のようなスペクタクルさはないけれど、その空間に生きている生身の人間の姿を通して何かを感じてほしい」。門田さんはそう訴える。
「ブンヤ、走れ! ~阪神・淡路大震災 地域ジャーナリズムの戦い~」(脚本・駒来愼、演出・門田裕)は17日(開演午後6時)、18日(同午前11時/午後3時)に大阪市中央区のエル・シアターで。一般4千円、シニア(70歳以上)3500円、障害者と25歳以下は3千円。問い合わせは関西芸術座(06・6539・1055)まで。(田中佐和)