単刀直言

伊吹文明元衆院議長 政治家は信念に基づく発言を

インタビューに応じる伊吹文明元衆院議長=11月30日、東京・平河町(酒巻俊介撮影)
インタビューに応じる伊吹文明元衆院議長=11月30日、東京・平河町(酒巻俊介撮影)

38年間の議員生活を終え、日々の緊張感が少しなくなった、そんな感じですかね。国民の主権を預かって東京へ出てきているので、投票してくれた方々に恥をかかせちゃいけないと常に行動してきましたから。振り返れば、政治で一番おもしろいのはやはり政策を実現していく政略ですね。新聞記者の中にも政治記者という政局記者がいるように、政局はある意味で非常におもしろい。失敗もあれば、うまくいったこともいろいろありました。関係者の多くはお元気だからまだ語れないけどもね。

岸田文雄政権を評価するのはまだ早いでしょう。先の衆院選は、事前の予想と比べてよかったというだけで、勝ったという雰囲気ではない。立憲民主党は共産党の固い票があったから、結果的に選挙区で若干議席を増やしたが、比例議席はがた減りですね。来年夏の参院選は1人区が多いから、共産党との関係をどうするのかな。立民の新執行部の方針にもよるが、日本維新の会の出方も含め、自民党は注意して臨まないといけない。

岸田政権が安定政権になるかは、一つは支持率が落ちてきたときでもバックアップしてくれる基盤を作ること、もう一つは政策で国民の支持を得ること。岸田さんには、目先の人気取りよりも、国民になるほどと思わせるような政策を期待しています。

例えば、岸田さんが掲げる「デジタル田園都市国家構想」とは具体的にどんなものなのか。宏池会(岸田派)の大先輩の大平正芳元首相の「田園都市構想」は教育や文化を包含した豊かな住環境を地方につくることだった。これができれば、海外に出てしまった日本企業の工場を呼び戻すことも可能になる。

「アベノミクス」で成長と分配の好循環が生まれなかったのは、金融緩和で良い条件をつくっても、国内で設備投資を起こさせる環境が整わず、海外に投資が逃げたから乗数効果が内需として生じなかった。今の70代は元気だ。若い人も働く場所さえあれば祖先の土地にとどまって暮らしたいと思う人も多い。こうしたことが実現できれば、工場も戻り、サプライチェーン(供給網)も安定し宏池会の先輩の志も生きてくるでしょう。

憲法は時代に合わせて変えるべきです。維新と国民民主党が改憲議論を進めようとしていることに期待感を持っています。現状の改憲勢力と協力し、どのように各党に働きかけていくのか。これは内閣ではなく自民党の責任です。私が以前「新型コロナウイルスは憲法改正の実験台と考えた方がいい」と発言したら、「コロナに便乗するな」とずいぶん批判されました。共産を除く政党は何らかの改正が必要だと考えている。コロナ禍の状況を考えれば、緊急事態条項創設なら意見が一致する可能性はある。

憲法改正の発議権は、憲法により内閣でなく国会にある。国民投票が否決された場合、だれの責任かも議論しておく必要がある。政治的には最大与党の党首の責任でしょうが、形式的、法的には発議した衆参両院議長の責任でもある。そうしたことも踏まえ、両院の憲法審査会で積極的に議論してほしい。憲法改正については国会の責任は重いですね。

私が引退したことで、財政規律を考える人が減ってしまうことが心配です。お金をもらえば、だれもがうれしいが、18歳以下への10万円相当の給付はどれだけの国民が望んでいたのだろうか。その経済効果はどうなのか。財源は国債で、国債は将来世代にその納税で利払いや償還の義務を課します。保守の支柱エドマンド・バークは「国家とは受け継ぎ、護(まも)り、次世代に引き渡す共同体」と言っています。保守を自認する政治家には大切にしてもらいたい言葉です。

これからの政治家は、目先の票や時の流れにおもねるのではなく、信念に基づく発言をしてほしい。同時に、政策を実現するには与党内はもちろん、野党との信頼関係や人脈を作ることですね。数学の世界と違い、人間のやることには絶対正しい答えはないわけで、異なる意見にも寛容、妥協を図ることも大事、しかし筋は通す。多数決万能でなく、与党の政治家は特に考えてほしいですね。

福田赳夫先生の評伝を読むと、「国会議員を引退しても、政治からは引退しない」とおっしゃっている。私はそこまでの迫力はないけど、一人の有権者として、日本の政治や社会のあり方について必要なことは発言していこうと思っています。(広池慶一)