日本の大学生アスリートのスポーツ留学をサポートしています。以前、米国にサッカー留学している教え子が「こんなの日本ではありえない!」と会員制交流サイト(SNS)でコメントしていました。添えられた写真には、監督の話を寝そべりながら聞いている選手たちのミーティング風景が写っていました。
日本を含む東洋文化圏での他者とのコミュニケーション方法と、西洋文化圏のそれとは、大きく異なっているといわれています。東洋文化を代表する中国では、人口の95%が同じ漢民族。このため、思想や習慣の異なる人と出会う機会が、かつてはめったにありませんでした。村がコミュニティーの基本単位なので、村人同士が顔を合わせる機会が多くなり、同じ行動規範を持つので、「暗黙の了解」ということが可能になります。
このような環境では、意見が分かれた場合、どちらが正しいかを決めるよりも、双方の意見をうまく取り入れ、妥協点を見つけることが重要になります。そして、その役割を担っていたのが、年長者や上司などの存在で、コミュニティー内では特別な権威が与えられました。これが、儒教文化へとつながります。
日本も影響を受けており、冒頭で述べた教え子は、チームというコミュニティーにおける権威(監督)の話を「寝そべって聞く」という敬意を欠いた(ように見える)選手たちの〝態度〟が、理解できなかったのでしょう。
一方、西洋文化では、多くの国が陸続きであるため、常に新しい人々、習慣、思想が行き交う環境がありました。このため、異なる考え方や習慣を持つ人々とコミュニケーションを取り、自分の考えを相手に明確に伝える必要がありました。求められたのが、相手を説得するための「論理力」です。「Aが原因となって、Bが起こる」という、道筋を立てて物事を説明する能力のことです。
西洋文化のコミュニケーションでは「態度」や「姿勢」よりも、この「論理力」が大切だと考えられています。ですので、教え子が目撃した光景は、監督に対して選手たちが敬意を払っていなかった、というわけではないのです。
昨今は、多くのアスリートが海を渡るようになっています。成功を収める秘訣は、このような「文化間の価値観、考え方の違い」にいち早く気づき、自身のアスリートとしてのストロングポイントをアピールしつつ、競技特性やコミュニケーションの方法を現地仕様に切り替えることです。大リーグで今季の最優秀選手に選ばれた大谷翔平選手のプレーや立ち居振る舞いも、米国仕様に適応した結果に見えます。そういうグローバルな世界で戦ったアスリートたちの経験は、日本のスポーツの発展(ローカル)にも、大きく貢献してくれることでしょう。
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西条正樹(にしじょう・まさき) 1981年生まれ、長野県出身。大学在籍中、セントラルワシントン大学(米国)へ派遣留学。社会人経験を経て、マッコーリー大学(豪州)大学院人間科学研究科で英語教授法(TESOL)取得。留学中は、現地のサッカー、フットサルチームに所属。日本人選手の移籍サポートにも携わった。京都府テックボール協会理事。びわこ成蹊スポーツ大学准教授。
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スポーツによって未来がどう変わるのかをテーマに、びわこ成蹊スポーツ大学の教員らがリレー形式でコラムを執筆します。毎月第1金曜日予定。