シャンプーでふらつき 「美容院脳卒中症候群」対策は

ドライヤー式の洗髪機で髪を濡らす松岡大介社長。客は座ったまま受けられる=神戸市中央区
ドライヤー式の洗髪機で髪を濡らす松岡大介社長。客は座ったまま受けられる=神戸市中央区

美容院でシャンプーを受けた後にめまいやふらつき、手足のしびれなどが起きる「美容院脳卒中症候群」という症状に悩まされる人たちがいる。あおむけに寝て首を反らして髪を洗うことで首の動脈が圧迫されることなどが原因と考えられる。「シャンプー台が不安で美容院を楽しめない」という声を受け、神戸市の美容院が座ったまま洗髪ができる「シャンプースチーマー」を導入した。医療や介護の現場で使われているが、美容院での利用は珍しく、高齢者や妊婦らから好評だ。

座って洗髪

シャンプースチーマーは理美容機器メーカー「ティ・アイ・プロス」(京都府宇治市)が製作。きっかけは「介護や医療の現場でも自由に洗髪ができないか」という訪問美容を行う美容師からの相談だった。平成29年に開発し、今では京都や山形など全国6府県の医療・介護施設で取り入れられている。妊婦や血圧の変化に不安がある人などにも有効という。

洗髪の仕組みはこうだ。座ったままの状態でドライヤー式の洗髪機から約40度の蒸気が出て髪をぬらしていく。約30秒で根元まで髪が湿り、蒸気で頭皮や毛穴の皮脂汚れが浮いてくる。蒸気のため髪だけがぬれ、周囲に水が飛び散ることはない。流水を使えないことから泡が少ない専用のシャンプー剤を使用。再び洗髪機で髪をぬらし、浮き上がった皮脂の汚れと残ったシャンプーをタオルでふき取る。1回あたりの洗髪にかかる時間は約20分。

神戸市の美容院「CARE」を経営する松岡大介社長(53)は、今年10月からこの洗髪機を利用。きっかけは2年前に重度の頸椎(けいつい)椎間板ヘルニアを患う客から聞いた「シャンプー台が不安だ」という声だった。従業員からもそういう不安を抱える人は一定いると聞き、導入に踏み切ったという。

1カ月余りで約10人が利用。腰が曲がった70代の女性は「新しいサービスにとても安心した」。30代の妊婦は「妊娠後期であおむけに倒れる姿勢に不安を感じていたが、今回はリラックスできた」と喜んだ。会員制交流サイト(SNS)で周知したり、シャンプー台の前にチラシを置いたりしてPRし、利用客も少しずつ増えてきたという。

松岡社長は「美容院のシャンプー台に不安を抱く方が予想以上にいることに驚いた。その半面、美容院脳卒中症候群という症状はあまり知られておらず、我慢している人も多いのではないか。一人でも多くの人に美容院に行く楽しみ、きれいになる喜びを感じてほしい」と話した。

悩み抱え「生活一変」

美容院脳卒中症候群はあまり知られておらず、原因も特定されていないが悩みを抱える人は少なくないとされる。「シャンプー台特有の首にかかる負荷が耐えられず、美容院で洗髪ができなかった」と話す神戸市北区の会社員、堂阪陽子さん(51)もその一人だ。

美容院脳卒中症候群に悩む堂阪陽子さん
美容院脳卒中症候群に悩む堂阪陽子さん

平成25年6月、過労で頸椎の椎間板ヘルニアを発症、痛みで横になれず、発症から4カ月間は壁にもたれる形で座って寝たという。1年半の間に3回の手術やリハビリを経て仕事に復帰したが、電車に乗れなくなった。停車時の揺れが与える首への振動に耐えられないからだ。「生活は一変した。今でも左手にはしびれが残っている」

ヘルニアを患う前は美容院での洗髪が大好きだったが、「とてもシャンプー台には耐えられない。何度か挑戦したが、台を倒そうとすると首に圧がかかって跳び起きる。それを繰り返していた」と振り返る。

複数の美容院を転々とし、自分に合うシャンプー台を探す日々。しかし、結局は洗髪なしで終えることが大半だった。そんな時、インターネットで同症候群を知ったという。

「自分と同じ悩みを抱えている人が大勢いることに救われた部分もあったが、同時に一種の社会問題だとも感じた」といい、シャンプースチーマーのように苦しみから解放してくれる機器の広まりに期待。その一方で、「美容院脳卒中症候群の認知度が上がり、悩みを言い出しやすくなることも大切だ」と訴えている。(倉持亮)