米中が対北軸に韓国の取り込み図る 米韓は対北作戦更新へ

【ソウル=桜井紀雄】米韓の国防相らが2日、ソウルで米韓定例安保協議(SCM)を開いた。この日は中国の天津で中韓の高官会談も行われた。米中対立が深まる中、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が最優先課題とする北朝鮮問題での協力を軸に、米中それぞれが韓国を自国サイドに取り込もうとする思惑がうかがわれる。

オースティン米国防長官や韓国の徐旭(ソ・ウク)国防相らが参加したSCMでは、北朝鮮の核・ミサイルの脅威の高まりに対応するため、作戦計画の更新に向けた新たな指針が承認された。バイデン政権にとっては、中国との対立を前提にした日米韓の安保協力の強化策の一環であり、中朝双方が反発する可能性がある。

指針の承認は11年ぶり。対北有事を想定した米韓の軍事計画には「作戦計画5027」や「同5015」があるが、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発などに対応し切れていないとの懸念が持たれていた。

SCM後に発表された共同声明には「台湾海峡での平和と安定維持の重要性」も明記され、対中牽制(けんせい)をにじませた。

一方、中国外交担当トップの楊潔篪(よう・けつち)共産党政治局員と韓国大統領府の徐薫(ソ・フン)国家安保室長は天津で会談した。徐氏は会談に先立ち、「来年が韓中国交正常化30年であり、両国関係について全般的に議論する」と記者団に語った。

中国側にとっては、来年2月の北京冬季五輪に対する文政権の支持取り付けが急務だ。バイデン米政権や英国などは中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権問題などを理由に北京五輪に政府高官らを派遣しない「外交的ボイコット」を検討している。

会談では楊氏が文大統領の五輪開会式出席を招請した可能性がある。文政権は経済的関係から中国の人権問題への言及を避けてきており、中国が文政権から支持の言質を取れば、米国主導の対中包囲網の切り崩しにもつながる。

さらに文大統領は来年5月までの任期内に南北関係で外交的成果を残そうと、休戦状態にある朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言実現に全力を傾けている。米政府とも協議を重ねてきたが、戦争の当事国の一つである中国の支持も取り付けたい考えで、中国高官も「建設的な役割を果たしたい」と言及していた。

だが、宣言が在韓米軍の撤収論を呼び、北東アジアの安全保障態勢を緩めかねないと日米や韓国内で反対意見が根強い。肝心の北朝鮮が米国の対北敵視政策の撤回が先決だとして宣言に難色を示している。北朝鮮は東京五輪への不参加を理由に北京五輪への参加資格を停止されており、北京五輪を対北対話の舞台にするという文政権の構想は実現する可能性が薄い。

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