10日から16日は、北朝鮮人権侵害問題啓発週間だ。
残念ながら、今年も拉致被害者救出に向けての進展がまったくないままに年の瀬を迎えようとしている。日本国民のひとりとして、同胞を助けられないまま歳月が流れていくことに責任を感じずにはいられない。
11月13日、岸田文雄首相は都内で開かれた拉致問題解決を求める「国民大集会」に出席し、「わが国が主体的に動き、トップ同士の関係を構築することが極めて重要だ。条件を付けずに金正恩(キム・ジョンウン)氏と直接向き合う決意だ」と、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記との直接会談に意欲を示した。
この会談実現の暁に、ぜひ提案したいことがある。制服を着た自衛官を帯同していただきたいのだ。
拉致被害者の象徴的な存在である横田めぐみさんの拉致から44年。政府認定の拉致被害者は17人(うち5人が平成14年に帰国)。警察が「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者」としている方が873人。これだけ長い間、多くの自国民を救出できずにいる最大の原因は、日本に「武威」がないからに他ならない。そもそも外交交渉というのは「片手に棍棒(こんぼう)を持ちながら、穏やかに話すようなもの」(セオドア・ルーズベルト)。「対話と圧力」と言っても、これまでの「圧力」だった経済制裁だけでは効果がなかったことを猛省し、「圧力」のなかに「武威」を含むことを示す必要があるのではないか。
筆者が幹事長を務める予備役ブルーリボンの会(荒木和博代表)では、長年、「拉致被害者救出に自衛隊の活用を!」と訴えている。特殊部隊による救出作戦も最終手段として当然視野に入れるべきだが、自衛隊の活用法は何もそればかりではない。情報収集その他、拉致被害者救出に向けて、安全保障のプロであり、日本の「武威」の象徴である自衛官に活躍してもらわない手はないはずだ。そのひとつとして「日朝交渉の場への制服を着た自衛官の同席」は、前例がないだけに北朝鮮への大きなメッセージになるであろう。
自衛隊の最高指揮官である岸田首相の「本気度」を、ぜひとも示していただきたい。
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【プロフィル】葛城奈海(かつらぎ・なみ)
やおよろずの森代表、防人と歩む会会長、ジャーナリスト、俳優。昭和45年、東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。近著に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)。