虎に新ダブル助っ投!と単純に喜んでいいのでしょうか。阪神は先発タイプのアーロン・ウィルカーソン投手(32)の獲得に続き、新外国人投手として右腕のリリーフ投手獲得が秒読み状況です。2人の新外国人投手獲りの裏で2年連続セーブ王のロベルト・スアレス投手(30)の慰留作業は大難航…という状況をどう読み解けばいいのでしょうか-。昨季オフに年俸8千万円から2億6千万円の大幅アップ&2年契約を結びながら2年目の来季の選択権はスアレスにあります。球団内部からは〝弱音〟も漏れる状況下、守護神残留作業よりも新助っ投ダブル獲りを優先させた球団の懐事情とは…。球団フロントは正念場を迎えています。
ダブル助っ人は同時発表か
手前みそを書くのは照れますが(それでも書くんかい⁉)、このコラムでは阪神が近く新外国人投手を獲得することを匂わせましたね(「ダブル流出の危機? スアレス10億円、梅野6億円…果たして球団は提示できるか」=11月16日アップ)。スポーツ新聞各紙は球団周辺を取材し、その名はアーロン・ウィルカーソン投手(32)=前米大リーグ、ドジャース傘下3A=であることが判明しました。メジャー通算14試合で1勝1敗の防御率6・88ながら、マイナーでは同144試合で55勝をマークしている右腕です。今季も3Aで19試合に登板した先発タイプの投手ですね。
ある球界関係者は力量について、こう分析していました。
「ウィルカーソンは先発タイプだね。だいたい年俸6千万円前後かな…。ガンケルみたいに日本で成長してくれたら…という願望で獲るんだろう。コントロールにまとまりがあるから大崩れはしない。来季は先発ローテーションをめぐって、ガンケルやチェンと争うことになるだろう」
メジャーで実績のなかったジョー・ガンケル投手(29)は阪神移籍2年目の今季は20試合に登板して9勝3敗、防御率2・95と活躍しました。今季年俸は7700万円。格安でよく働く…球団の懐にはとっても〝おいしい〟存在でしたね。ウィルカーソンはたぶん、実績から見てもガンケルと同じくらいの条件でしょう。阪神で〝確変〟すれば大成功でしょうね。
そして…です。ちょっとビックリしました。ホンマかいな、そうかいな…ですわ。なんと阪神はウィルカーソンの獲得作業を進めながら、並行して新たに3Aのリリーフタイプの右腕投手の獲得作業も進行中だったのです。作業の進捗(しんちょく)具合から考えると、ウィルカーソン投手の獲得と同時発表ぐらいの状況ですね。今度の新助っ投は完全なリリーバーです。年俸もウィルカーソンと似たり寄ったりでしょうね。なので助っ投ダブル獲りに要する資金は2人で総額2億円未満ではないでしょうか。
守護神スアレスの交渉は難航
ちょっと整理しますね。今季の外国人投手はアルカンタラ、エドワーズ、ガンケル、チェン、スアレスの5人。ちなみに外国人野手はマルテ、サンズ、ロハス・ジュニアでした。このうち外国人投手ではアルカンタラとチェン、ガンケルが残留です。成績不振のチェンは昨季のオフ、2年契約(年俸2億円)だったのですね。そして、今季42セーブを記録した2年連続セーブ王のスアレスは球団と残留交渉中です。なので、現時点で残留確定は3投手なのですが、ここに2人の新外国人投手が加入してくるわけです。先発とリリーフタイプが加わるのですね。
すごく、ぶ厚い布陣やなぁ~と喜んでいる人、ちょっとお待ちください。
今季42セーブを記録した守護神はどうなっていますか? 残留交渉は難航中でこのままの状況ならば、きょう30日が提出期限の保留者名簿から外れることになりますね。昨オフも一度は保留者名簿から外れたものの、12月24日に年俸8千万円から2億6千万円の2年契約でサインに至りましたね。しかし、2年目の来季の契約はスアレス側に選択権があるため、阪神側が出す条件に満足しなければ大リーグ移籍が現実味を帯びてきます。今シーズン中、メジャー複数球団のスカウトがスアレスを調査していました。160キロ超の直球に鋭く落ちる変化球。ある球界関係者は「メジャーのブルペンでは2番手か3番手ぐらいに評価されるだろう。契約するならメジャー契約になるはずだ」と話していました。
昨季の1億8千万円の大幅昇給→2年連続セーブ王の大活躍という流れ。そして大リーグ球団からの高い評価…など、これでもか…というぐらいの〝売り手市場〟ですから、スアレス側は2年契約の年俸総額8億~10億円を残留条件として希望している…とみられていますが、果たして阪神側にそれだけの資金があるのでしょうか。ここにきて阪神球団の周辺からは「お金では大リーグに絶対に勝てない。情に訴えるしかない」という切羽詰まった声まで漏れてきます。
コロナ禍で寒い懐事情
実際、財布のひもを握る藤原崇起オーナー兼球団社長はスアレスに対して、2年総額8億~10億円の投資を決断することができますか。昨季に続き、今季も新型コロナウイルス感染対策で球場の入場者制限は続きました。本来ならば、今季は最後まで優勝争いを演じたわけで、観客動員数も300万人を楽々、超えたでしょう。新型コロナウイルスがなければ、球団の金庫には札束がうなっていた?はずです。しかし、入場者制限で球団も球場も収入減に苦しんでいます。さらに阪神電鉄本社にもコロナ禍の影響が出ているでしょうから、やれ8億だ、やれ10億だ…と言われても『無い袖は振れん』ではないですかね。
そうした状況下で、ウィルカーソン投手に続き、スアレスと同じリリーフタイプの新外国人投手獲得の流れ…をアナタならどう分析します。阪神OBのひとりは首をかしげながら、こう話していました。
「スアレスの残留が来季の優勝争いへの絶対条件だろう。ならば、他の契約のことは後回しにして、まずスアレスの残留へ最大限のお金、条件を積むべきだろう。他の契約はスアレスにかかった費用を見ながら決めてもいいぐらいだ。ところが、スアレスの残留が決まらないうちに次々と新外国人投手を獲りにいっているのならば、完全に順番が逆やで!」
もう一度、新助っ投ダブル獲りにかかる予算を書きますね。あくまでも想像ですが、2人で1億5千万円から2億円まで。一方でスアレス残留にかかる費用は最低でも単年4億~5億円。
ここまで書いて、ちゃぶ台をひっくり返すようですが、スアレスが残留する可能性は残されています。大リーグはオーナー側と選手会側が労使協定の締結でもめています。最悪、12月に入ると労使紛争となって、ロックダウンやストライキの可能性まであります。選手会側は、①メジャー最低年俸の引き上げ②フリーエージェント取得期間の短縮…などを要求していて、オーナー側はサラリーキャップ制導入を求めています。事態は混沌(こんとん)としていますね。
もし、大リーグの労使紛争が長期化しそうであればスアレス側は前途が不鮮明な大リーグへの移籍を断念し、単年契約の年俸4億~5億円で阪神残留を提示してくる可能性はあるでしょう。さあ、そのときの藤原オーナー兼球団社長の決断はどうなるでしょうか。
いずれにせよ、スアレスが12月1日、保留者名簿から外れるならば、阪神は新局面を迎えます。来季、17年ぶりのリーグ優勝に向けて、今こそが球団フロントの腕の見せどころですし、正念場でもありますね。
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【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。