なお見えぬ凶行の引き金 愛知中3刺殺から1週間

愛知県弥富(やとみ)市の市立中で3年の男子生徒(14)が刺されて死亡した事件は、12月1日で発生から1週間となる。殺人容疑で送検された少年(14)は、被害生徒にいつしか不満を募らせるようになっていたとみられる。少年を凶行に駆り立てた引き金は何だったのか。愛知県警は事件に至る経緯をさらに詳しく調べている。

「助けて」。期末テストが迫った11月24日朝、校舎内に突然悲鳴が響いた。廊下には刃渡り約20センチの柳刃包丁を持ったまま立ちすくむ少年。腹部を刺された生徒は教室まで逃げた後、搬送先の病院で死亡が確認された。少年は登校したばかりの生徒を廊下に呼び出して襲ったとみられている。

知人らによると、2人は地域の保育園に通い、小学校では同じサッカー部に所属した。

「2人で一緒にいるところを見たことはないが、仲が悪かったという話も聞いていない」。2人と同学年の長女を持つ女性はこう話す。被害生徒は「活発で人懐っこい性格」、少年は「おとなしいまじめな性格」で、少年は似た性格の友人数人と一緒にいることが多かったという。

中学の部活動は別々だったが、2年で同じクラスに。昨年9月の生徒会選挙では、少年は立候補した生徒に応援演説を依頼され、引き受けていた。

今年2月に同校が実施したアンケートで、少年は加害者を明記せずに「いじめを受けたことがある」と回答。その後の個別面談で「生徒が不愉快な発言をしたり、応援演説を頼んだりしたことが嫌だった」などと答えた。

教諭は少年が嫌がっていることを生徒に伝え、3年で2人を別々のクラスにした。とはいえ、同校は1学年50人ほどで、3年は2クラスしかなく、2人の接点を完全になくすことは難しかった。

一方で、生徒とは直接関係のない出来事が事件につながった可能性もある。事件直前の11月14~16日の修学旅行中、少年は禁止されていたスマートフォンを持ち込んだ。被害生徒とは別の生徒がそれを見つけ、教諭に取り上げられたという。少年は県警の調べに対し、旅行中の一連の出来事に「疎外感を感じた」という趣旨の供述をしている。

県警によると、少年は11月24日朝、殺人未遂容疑で現行犯逮捕され、25日に殺人容疑で送検された。

関西国際大の中山誠教授(犯罪心理学)は今回の事件について「『いじめを受けていた』という感情と自分を取り巻く現状を変えたいという思いが、殺害という形で発露したのではないか」と分析。「大人は子供が出すシグナルを見逃さないようにしてコミュニケーションをとらなければならない」と指摘した。(小川恵理子)

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