新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の世界的な感染急拡大を受け、政府は外国人の新規入国を原則停止するなど、水際対策の強化を決定した。国内は今夏の流行「第5波」が落ち着き、社会・経済活動が本格的に再開し始めたばかり。医療関係者は一層の警戒を呼び掛ける一方で、旅行関係者らからは落胆の声も漏れた。
地域の拠点病院としてコロナ患者を受け入れてきた埼玉医科大総合医療センター(埼玉県川越市)の岡秀昭教授は、オミクロン株は変異が多く、ワクチンの効果を下げる可能性が指摘されていることを踏まえ、「同様の仕組みを使った抗体カクテル療法が効きにくくなると厄介だ」と警戒感を示した。
第5波では、重症病床が埋まって医療体制の逼迫(ひっぱく)が急激に進み、岡氏は「(オミクロン株は)軽症で済んでいるという海外の報告はあるが、少なくともデルタ株と同程度かそれ以上と考えておくべきだろう」と語った。
昭和大病院(東京都品川区)の相良博典院長は「現時点でオミクロン株を感知できる検査態勢が整っていないため、早期に態勢を確立する必要がある。確立されていない以上、すでに国内にいる可能性も含めて対策を考えなければならない」と強調した。また、相良氏はオミクロン株への対処として、「まだどういうものかは不明瞭だが、『3密』を防ぐ感染症対策を今まで以上に守っていく必要がある」と力を込めた。
水際対策の強化は、海外からの留学生や観光業者らも直撃する。
赤門会日本語学校(東京都荒川区)によると、長引くコロナ禍で査証(ビザ)が発行されず、母国で待機している入学予定の学生が多くいるという。担当者は「制限が長期化し、待機する時間が長くなれば、留学自体を諦める学生が出てきてしまう」と心配した。
旅行会社「東武トップツアーズ」のニューヨーク支店長、大倉淑章さん(57)は「米国で駐在する日本人も気軽には帰国できない状況が続いている。オミクロン株が米国で確認されるのは時間の問題。旅行業界は少し希望が見えてきたところだったが、逆戻りした」と話した。
昨年来のコロナ禍で業務の在り方を大きく見直した企業は事態を静観しているようで、海外に従業員を持つ大手総合商社の広報担当者は、打ち合わせなどはオンラインに切り替えたとして、「影響はあまりない」と話した。