JR西日本は山陰の冬の味覚松葉ガニ(ズワイガニ)を特急や新幹線を使って関西や九州へ水揚げ当日に届けるサービスを開始した。旅客用列車の空きスペースを生かし、地域の特産品を運ぶ貨客混載輸送事業の一環。コロナ禍で旅客が減少する中、既存の設備を生かして各地の特産品を都市圏に売り込み、販売収益と誘客を狙う。担当者は「列車はトラックよりも早く運べる。今後も各地の特産品の価値と鉄道の価値を結びつけて運びたい」と話している。
境港産の松葉ガニ
11月12日午後、岡山市北区の岡山駅。「3番乗り場に入ります列車は特急やくも14号です-」。アナウンスとともにドアから降ろされて荷台に積み替えられたのは生きたままの松葉ガニ16匹の入った氷入り発泡スチロール5箱だ。
松葉ガニは当日午前、鳥取県境港で水揚げされたばかり。トラックで米子駅まで輸送された後、特急やくもで運ばれてきた。
5箱のうち、3箱に10匹の松葉ガニが入れられており、岡山駅構内の店舗で販売。残り2箱に入った6匹は、新幹線みずほ606号に載せ新大阪駅へと向かった。新大阪駅ではさらに特急スーパーはくと8号に積み替えられ、京都駅ビルの百貨店で販売された。
米子駅から京都駅までの約380キロの所要時間は4時間23分。JR西の特急・新幹線を活用して新鮮なカニを産地から消費地へとつなぐ高速リレーだ。来年3月下旬まで不定期で続けるという。
JR西岡山支社の伊東暁ふるさとおこし本部長は「今後も各地の産品の価値と鉄道の価値を結びつけたい」と話す。
「産直便マルシェ」
JR西は7月から、岡山県内で普通列車の空きスペースを使って農産品を輸送する貨客混載の事業「産直便マルシェ」を行ってきた。
毎週木曜日、朝採れ野菜や果物の入った段ボール数箱分を、伯備線の備中高梁(びっちゅうたかはし)駅(岡山県高梁市)から岡山駅へ輸送。これまでにフルーツでは桃やいちご、野菜ではトマトやキャベツなどを駅構内の店舗で販売している。
同社がもつ既存の設備(鉄道・列車の空きスペースなど)を活用し、地方の高品質な農産物を都市に運び、産地PRと販路拡大を図る取り組みだ。
山陽新幹線を使った貨物輸送事業は11月1日から開始。新幹線輸送の強みは速達性だ。最速300キロの山陽新幹線は、博多-新大阪の所要時間は2時間28分。トラックでの所要時間7時間20分の約3分の1だ。
苦しい台所事情
JR西がこうした貨客混載輸送に取り組む背景には、コロナ禍による鉄道利用の急減に伴う旅客収入の減少がある。同社が今年4月に発表した令和3年3月期の連結決算では、最終赤字が2332億円。売上高は8981億円と前期比40%減だった。
こうした苦しい台所事情の中、JR西は新たな収益源を探っている。ただ、貨客混載事業の輸送量は企業規模から考えると多くはなく、事業の意義としては産地PRに伴う誘客の意味合いが大きい。
JR西の平島道孝岡山支社長は「朝採れ野菜の輸送は毎回完売に近い状況が続いており、手ごたえを感じている。貨客混載は現在は誘客の部分が大きいかもしれないが、物流ビジネスとして成立するようチャレンジを続けていきたい」と話している。(高田祐樹)