日曜に書く

論説委員・木村さやか 「オトナ思春期」は成長期

誰もが直面する介護
誰もが直面する介護

「白鵬も、メルケルも引退した。時代は変わったんじゃ」

プロデューサーの三好洋子さん(63)はこの夏、岡山市内の実家で独り暮らす88歳の父親から突然「施設に入る」と宣言された。介護をめぐり家族がぶつかり、泣いたり笑ったりして10年超。自分に言い聞かせるように冒頭の言葉を口にした父親に感心しつつも、「メルケルに重ねてきたか…」と笑いをこらえるのが大変だったという。

数年前から高齢者鬱を患う父親は時に暴言を吐いたり、テレビのリモコンを投げつけてきたりすることもあった。10年前に妻(89)が認知症を発症、介護に奮闘したが、症状が悪化した妻は昨秋、サービス付き高齢者向け住宅に入居。それから1年が過ぎたころ「もう独りで生活するんは、無理じゃと思う」と言い始め、何度も揺れながら、最終的には同じ施設に入ることを決めたのだった。

父親が何より苦悩したのは、妻の介護が自分の手に負えなくなったことと、自立して生活できなくなった自分を受け入れることだった。父親は、「独りは寂しい。今は生きる張り合いもねえ。最後はお母さんと一緒にいてえ」と率直な心の内を打ち明けてきた。

そんな父親を前に、三好さんも煩悶(はんもん)した。だが9月、父親は施設に移り、三好さんと弟家族は可能な範囲で施設を訪ねる日々に。「自分で決めた父には本当に感謝している」としつつ、三好さんはこう話す。

「介護が始まってパニックの第1章、慣れてきた第2章を経て、新たな第3章に入った、って感じなのよ」

家族の物語は、続くのだ。

きっかけはコロナ禍

三好さんは短大進学と同時に実家を離れ、福武書店(現ベネッセコーポレーション)に就職。人気雑誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」(併せて「たまひよ」)などの創刊を手掛け、正月も実家に帰らないほど、東京で仕事に明け暮れた。

だが40代を目前に、更年期障害が出始めた。どこに相談すればよいか分からないさまざまな不調に、「努力と根性で乗り切れたものが、できなくなった」。42歳で退職し、プロデューサーとして独立。だが母親の認知症が発覚し、今度は遠距離介護に向き合うことになった。

「私は全然親孝行してこなかった。だから、介護は親子関係の再構築から始まったの」と三好さんはいう。母親の認知症がまだ軽かったころは、連れて行った旅行先で大げんかしたり、「もう無理!」と予定より早く東京に帰ったり。往復交通費が3万円超の遠距離介護を試行錯誤する中、三好さんは東京と岡山の両方で仕事と生活をする2拠点生活に入る。きっかけは、新型コロナウイルスだった。