沿道の植え込みに、房をなす赤い実を見つけたのは1週間ほど前だった。気付かされた、という方が正しいかもしれない。都心は11月に入ってからも穏やかな日和が続き、こちらは季節の移ろいに鈍くなっていた。
▼草木は早々と冬支度を済ませ、暦が進むのを待っていたらしい。〈鵯(ひよどり)のこぼし去りぬる実の赤き〉と与謝蕪村の句にある。ナンテンやセンリョウ、マンリョウなど、冬を代表する木の実には赤が多い。小欄が目にしたのは、トキワサンザシというバラ科の木だった。
▼赤い実は「色仕掛けで鳥を誘う」タイプだと、これは植物生態学者、多田多恵子さんの著書『種子(タネ)たちの知恵』に教わった。実の中には種がある。鳥の餌となって遠くへ運ばれ、〝落とし物〟に紛れてよそで子孫を増やす。「赤」は鳥の目を引くための化粧という。