18歳以下の子供に対する10万円相当の給付の問題点はその目的、狙いがはっきりしないこと。子供ではなく、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた個人を対象にすべきだった。企業の場合と同様に、大幅に所得が減った人に一定の所得制限をして給付するというのが正しい姿だろう。
本来、給付金の位置づけは既存の制度では救われない人を一時的にカバーするもの。
たとえば失業した人に対しては、雇用保険制度といった既存の制度がある。これらがしっかり使われているかを検証し、機能していないのなら、給付金を論じる前に、運用の見直しが先に来るのがあるべき形だ。
《政府は「主たる生計維持者の収入」を基準とし、世帯年収が1千万円を超えていても、主たる生計維持者が960万円未満なら、給付の対象とした》
所得制限があるとはいえかなり広範囲に配られることになった。結局は国民の負担で、お金が回っているだけだ。
本当に困っている人には10万円では足りず、そうした人を救済する仕組みになっていない。たとえば、所得がコロナ前より3~5割下がり、さらに世帯年収が500万円以下であるところなどに対象を絞れば、給付額を30万円にすることも可能だった。
迅速さを重視して児童手当の枠組みを使ったようだが、コロナの感染拡大が始まってから2年近くがたち、今も痛手が残っているとはいえ、経済活動は戻りつつある。そんなタイミングで迅速性を最優先する必要があったのだろうか。迅速さよりも適正さ、公平さを重視すべきだったのではないだろうか。
《10万円のうち5万円は現金、残りは子育て関連に使途を限定したクーポンで給付する。これで経済対策としての消費の押し上げは見込まれるのか》
リーマン・ショック後の平成21年に政府が支給した定額給付金は、子供のいる世帯で40%が支出に回ったとする内閣府の試算がある。その計算に基づけば、今回の財政支出の額を踏まえると、7千億円規模で個人消費を押し上げる。
ただ子供がいる世帯の支出が必ず増えるかというとその根拠は乏しく、消費の押し上げ額は実際にはさらに低くなる可能性がある。
また感染リスクが下がれば、財政支出がなくても(一時的に落ち込んでいた需要が回復する)「ペントアップデマンド」があるので、自然と民間需要は戻ってくるだろう。
いま世界をみると、コロナ対策として「過去最大」の景気対策を行っている国はない。米国が(財政支出を)気候変動対策に充てるなど、政策の軸は別のところに移ってきている。
今回の給付は政治色が強い。給付は困窮世帯に振り向けられ、コロナで打撃を受けた人をピンポイントで救う仕組みであるべきだ。(聞き手 岡本祐大)
きうち・たかひで 野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。昭和62年野村総合研究所入社。ドイツや米国勤務を経て、同社経済研究部日本経済研究室長や野村証券金融経済研究所経済調査部長兼チーフエコノミストなどを歴任。日本銀行審議委員も務めた。平成29年7月から現職。