《政府が26日までに閣議決定した新型コロナウイルスの新たな経済対策。18歳以下の子供に対する10万円相当の給付が柱の一つとなっているが、年齢や年収で線引きする政策の意図が今もってはっきりせず、本当に支援が必要な人に行き渡るのかどうか見通せない》
給付はないよりはいい。しかし目的は困窮者支援か子育て支援なのか、判然としない。給付による弊害も大きいと感じている。
今、子育て世代の中心になっているのは、30~45歳くらいの就職氷河期世代だ。この世代内部の格差をさらに広げる可能性があることは問題といえる。
氷河期世代は、就職して正社員になれた人がいる一方、多くが正社員になれず、今も非正規労働者として苦境に立っている。こうした人で結婚し、子供もいる世帯は少ないだろう。
今回の子供への給付は、氷河期世代の本当に苦しい人に支援が届かない半面、比較的裕福な人を支援する政策になっている。氷河期世代といっても内部での格差が激しい。今回の給付はその中の対立を深刻化させる恐れがある。世代で亀裂が生まれるのは、好ましくない。
もちろん一回限りの給付で大きな影響はないのかもしれない。ただ非正規労働で子供もいない世帯にとっては、「見捨てられた」と感じる人もいるだろう。格差拡大によって社会が一体感を失うのではとの危惧もある。
《政府は児童手当の所得制限を参考に、給付対象を「主たる生計維持者の年収が960万円未満」(夫婦と子供2人の場合)と定めた》
所得制限を設けることは理解できないわけではないが、960万円超の所得のある子育て世代は1割以下だ。子育て支援が目的であれば、所得に関係なく子供がいる家庭に一律給付するべきではなかったか。
昨春の一律10万円給付の際もそうだったが、現金給付の話題になると、どうしても「お金持ちにも配るのか」との批判が噴出する。
ただ、そんな一律給付への不公平感を解消する方法もある。例えば給付後、所得に応じて税金という形で支給額の一部を回収するような仕組みがあれば、多くの人が納得し、迅速な給付も可能となるだろう。
本当に困っている人を選別し、集中的に支援することは難しい。ここで必要なのは、支援を広く行き渡らせることではないか。非正規労働者に対しては最低賃金の引き上げで、飲食店などコロナ禍で打撃を受けた事業者には早期に協力金を支給することで支援し、子育て世代には、今の児童手当を1万円増やすといった継続的な給付が有効だと考える。
既存あるいはコロナ禍で生まれた支援制度を駆使しながら、円滑かつスピーディーに対応にすることが何よりも重要だ。(聞き手 桑村大)
はしもと・けんじ 早稲田大人間科学学術院教授(社会学)。東京大大学院を修了後、静岡大助教授、武蔵大教授を経て平成25年から現職。階級・階層論などを研究分野とし、著書に「〈格差〉と〈階級〉の戦後史」(河出書房新社)、「新・日本の階級社会」(講談社)など。
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岸田文雄首相の「分配政策」を基調とする新たな経済対策をめぐっては、「ばらまき」との批判が絶えない。本当に必要な支援とは何か。給付は経済の持続的な成長につながるのか。専門家が「直言」する。