霊性の回復望む祈りの書 文芸評論家の竹本忠雄さんが自叙伝刊行

文芸評論家の竹本忠雄さん
文芸評論家の竹本忠雄さん

仏作家アンドレ・マルローの研究で国際的に知られる文芸評論家で筑波大名誉教授の竹本忠雄さん(89)が、全8巻に及ぶ自叙伝『未知よりの薔薇(ばら)』(勉誠出版)を刊行した。構想に50年、執筆に7年を費やしたという自叙伝には、皇后陛下(現上皇后さま)のお歌を仏語訳するなど日仏文化交流への参画はもとより、作家の三島由紀夫ら文化人との交流なども数多く盛り込まれている。

「私が体験してきたことを包み隠すことなく記した懺悔(ざんげ)録、コンフェッション」。竹本さんがそう表現する自叙伝だが、刊行までは難産だった。どのように書けば特異な体験に彩られた人生を伝えることができるか-。その方法を長らく模索し、7年前にやっと「文学とは記述すればいいのだ」という三島の説に従って、書き始めることができたという。

その筆先から紡がれる自叙伝には時代を彩るエピソードや多くの文化人が登場する。昭和49年、マルローが皇太子ご夫妻(現上皇ご夫妻)にご進講したときには通訳を務め、那智の滝と伊勢神宮をめぐるマルローの旅にも随行し、彼がそこで体験した神秘の意味を世界に伝えている。

三島が自決した直後には、作曲家の黛敏郎や仏文化人の有志らとともに「パリ憂国忌」を主宰した。世界的な仏教哲学者・鈴木大拙、哲学者・久松眞一、実業家・出光佐三、ダライ・ラマ14世など時代を象徴する人物との交流もつづられる。いずれもその奥底に霊性を秘めた人々だ。霊性とは、宇宙や神といった絶対的な存在に応答する心の働きとでもいえばよいだろう。

「私の人生は、夢やヴィジョン(幻視)を見ると、ほとんどそれが現実化することの連続でした。苦境に立たされたとき、異形の者が現れ、救済のための真理を黙示してくれる」