「保険証持ってたら…」わが子死なせた母の貧困と孤立

コロナ禍で拡大懸念

病院や支援施設に訴え出ていれば、親や周囲に助けを求めていれば、罪なき女児の未来が閉ざされることはなかった可能性が高い。金銭的に困窮する中、一人で出産や子育てに対処しようとした被告の行動は、取り返しのつかない結果を招いた。

今回の事件について、社会福祉に詳しい関西国際大の道中隆教授は「(出産した女児の)命を医療機関につなげる責任が被告にあったことは否めないが、少なくとも母子健康手帳を持っていれば、保健師による訪問など、行政が介入できた可能性があった」と話す。

道中教授は「核家族化に加え、新型コロナウイルス禍により、既存の制度ですくい取れない貧困母子家庭が、ますます孤立を深める可能性がある」とも指摘。「『自己責任』で片付けるのではなく、社会全体で危機感を持つ必要がある」と強調した。(塔野岡剛)

「産後ケア」は喫緊の課題 無償化の試みも

出産後間もない母子に対する支援強化は、国や自治体でも喫緊の課題として認識されている。今年4月には改正母子保健法が施行され、産後1年以内の母子が助産師などから家庭訪問を受けたり、宿泊や日帰りで施設を使えたりする「産後ケア事業」の実施が、自治体の努力義務となった。

厚生労働省によると、令和2年度に同事業を実施した自治体は、全体の7割近い1100市区町村超。平成30年度に比べて2倍近くに増えている。

27年度から事業を開始している東京都文京区では当初、「宿泊」で施設を利用したのは延べ44人だったが、昨年度は延べ130人に増加。区担当者は「今後は利用者の負担額を安くすることも検討課題としたい」と話す。

鳥取県では昨年度から、経済的な理由で支援を受けられない人が出るのを防ぐため、全国で初めて産後ケア事業を無償化した。利用者は大幅に伸び、宿泊と日帰りの利用者は令和元年度の延べ108人から、昨年度は延べ296人と3倍近くに伸びている。

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