鑑賞眼

パルコ・プロデュース「ザ・ドクター」追い込まれる姿、リアルに 

誇り高い医師を演じる大竹しのぶ(宮川舞子撮影)
誇り高い医師を演じる大竹しのぶ(宮川舞子撮影)

英国で最高峰の医療研究所に、人工中絶をしようとして失敗した少女が運ばれてくるところから、物語は始まる。白衣姿で自信にあふれた所長のルース(大竹しのぶ)が、「自分は医師である」という信念を曲げないがために追い込まれていくさまが、とてもリアルで胸が痛い。

危篤となった少女の元に、「彼女の両親から頼まれた」とカトリックの神父(益岡徹)が臨終の典礼を授けようと訪れる。ルースは、少女が神父を見て自分の死を悟り混乱することを恐れ、病室への入室を拒否する。ところが、あくまで医師として行ったこの判断が、後に〝外野〟の人々から宗教差別、人種差別と受け取られてしまう。

100年以上前に書かれた戯曲を英国の劇作家、ロバート・アイクが翻案。2019年にロンドンで初演された作品とあって、少女がインターネットで手に入れた薬で中絶に失敗するところや、入室を拒否された一件がネットから社会に発信されるところなど、現代風の仕掛けが随所にある。

宗教や人種をあまり意識せずに暮らす日本人にとっても、ルースに対して巻き起こるネット上の大バッシングは身近に感じられるだろう。宗教、人種にとどまらず、性的マイノリティーの問題も盛り込まれ、人間は多面的で複雑な背景を持っていることが分かる。

にも関わらず、ルースは彼女の人種と宗教から、見ず知らずの人間から勝手にレッテルを貼られ、責め立てられる。味方だったはずの周囲の人間も離れていき、ついには職さえ失う。大竹が全身から発する怒りと悲しみの表現は秀逸で、緊張感ただようせりふの応酬も、最後まで飽きることなく見届けられた。

少女の父と2役を演じ分け、最後はルースと対話することで他者を理解しようとする神父役の益岡は、物語に深みを与える好演。謎めいたルースのパートナー、チャーリー(床嶋佳子)、隣人のサミ(天野はな)は共に難役だが、しなやかに演じた。対局にあるのが保健担当大臣のジェマイマ(明星真由美)で、人間の本性を鮮やかにみせてすがすがしい。ルースの部下のマイケル・コプリー(宮崎秋人)、若手医師(那須凜)らの若くまっすぐな姿も舞台のスパイスとなった。登場人物が多く2役を演じる役者も多いが、栗山民也の細部に行き届いた演出で、どの役も立体的に浮かび上がったのが見事だ。

28日まで、東京・渋谷のPARCO劇場。問い合わせは、0570・00・3337。兵庫、豊橋、松本、北九州公演あり。(道丸摩耶)

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

ルース(大竹しのぶ)の判断をめぐり研究所内でも意見が割れる(宮川舞子撮影)
ルース(大竹しのぶ)の判断をめぐり研究所内でも意見が割れる(宮川舞子撮影)