通崎好みつれづれ

「美鈴先生」の思い

青山音楽財団で理事長を務めた田中美鈴さん=京都市西京区(渡辺恭晃撮影)
青山音楽財団で理事長を務めた田中美鈴さん=京都市西京区(渡辺恭晃撮影)

今年の9月に、公益財団法人青山音楽財団の理事長・田中美鈴さん(81)が、同財団の職を退任された。退任のごあいさつには、昨年、新型コロナの影響で、財団創立30周年の記念事業の多くを断念せざるを得なかった無念の思い、財団が運営する青山音楽記念館「バロックザール」(京都市西京区)でコンサートが開催されず「生音」が消えた時の寂しさが端的につづられており、思わず胸が熱くなった。

田中美鈴さんは、私にとっては「美鈴先生」。ピアニスト、教育者として、30年の長きにわたり、わが母校、京都市立堀川高校音楽科分校(現、京都市立京都堀川音楽高校)の教諭を務められた。音楽一辺倒になりがちな堀音において、美鈴先生は、一般教科の先生にも意欲的に学校運営に携わってもらうよう配慮してこられたと聞く。時には、全校120名の公立高校に予算がかかり過ぎるという市政の声にも立ち向かい、音楽専門教育の重要性を訴えた。

美鈴先生は、財団初代理事長、京セラの創業メンバーである故・青山政次(まさじ)氏の姪(めい)にあたる。音楽の現場に精通していることから、理事長の「若い音楽家を支援したい」という思いをいかに具現化するか、財団設立時より主体となって動いてこられた。

20代の頃私も受賞し、現在選考委員として携わる「青山音楽賞」の授与は、財団支援事業の柱といえるだろう。東京のいわゆる著名な権威に審査を託すのではなく、地元の演奏家らが選考、審査にあたる。なぜなら、できるだけ演奏会を生で聴いて審査することが望ましいからだ。例えば、新人賞には賞金100万円、音楽研修費200万円、研修成果披露演奏会開催費用50万円、という金額も支援の名にふさわしい。今や、全国からこの賞を目標に演奏家たちが京都にやってくるようになった。

新型コロナ流行を機に、クラシック音楽の世界にも変革が見られる。京都の芸術文化の発展を支えてこられた美鈴先生には、これからも温かく、時に厳しく、京都の音楽界を見守っていただきたいと願う。(通崎睦美 木琴奏者)

青山音楽記念館のホール「バロックザール」の照明。光沢に座席が写り込んでいる=京都市西京区(渡辺恭晃撮影)
青山音楽記念館のホール「バロックザール」の照明。光沢に座席が写り込んでいる=京都市西京区(渡辺恭晃撮影)
 「バロックザール」のシートに記された文字=京都市西京区(渡辺恭晃撮影)
「バロックザール」のシートに記された文字=京都市西京区(渡辺恭晃撮影)

つうざき・むつみ 昭和42年、京都市生まれ。京都市立芸術大学大学院修了。マリンバとさまざまな楽器、オーケストラとの共演など多様な形態で演奏活動を行う一方、米国でも活躍した木琴奏者、平岡養一との縁をきっかけに木琴の復権に力を注いでいる。執筆活動も手掛け、『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』で第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)と第24回吉田秀和賞をダブル受賞。アンティーク着物コレクターとしても知られる。

 通崎睦美さん(中川忠明さん撮影)
通崎睦美さん(中川忠明さん撮影)