【北京=三塚聖平、台北=矢板明夫】中国で台湾政策を主管する国務院(政府)台湾事務弁公室は25日までに、台湾の大手複合企業、遠東集団に罰金など約86億円の支払いを命じたと発表した。中国側は、同社が台湾の与党、民主進歩党の有力支援企業と指摘しており、圧力をかけたとみられる。しかし、政治的理由で企業に嫌がらせする中国のやり方が台湾で大きな波紋を広げており、中国に進出する台湾企業の撤退ラッシュにつながると予測する経済専門家もいる。
台湾事務弁公室の朱鳳蓮(しゅ・ほうれん)報道官は24日の記者会見で、遠東集団が上海や江蘇省などで手掛ける事業に違法行為があったとして、約4億7400万元(約86億円)の罰金と追徴課税の支払いを命じたことを明らかにした。そのうえで朱氏は「いかなる企業も(中国)大陸で金をもうけながら、頑迷な『台湾独立』分子のスポンサーになって資金援助することは決して許されない」と警告した。
中国メディアは「遠東集団は民進党の大スポンサーだ」という見方を示している。台湾事務弁公室は今月5日、台湾の蘇貞昌(そ・ていしょう)行政院長らを「頑迷な『台湾独立』分子」としてリストに掲載して制裁措置をとると表明。支援者が本土で利益を得ることも禁じるとしている。遠東集団への罰金は、この措置に関連したものとみられる。
しかし、遠東集団は台湾で、民進党よりも、親中派の最大野党、中国国民党に近い企業というイメージがある。これまで、総統選など大きな選挙の際に、法律に基づき、民進党にも国民党にも献金しており、その金額をすべて公表してきた。中国当局は、同集団が民進党に献金したことを問題視しているようだが、台湾のほとんどの大手企業は同じことをしているため、中国の処罰対象はこれから膨らむ可能性がある。
台湾企業の中国進出は1990年代から本格化した。当時の中国政府は資金と最先端技術を受け入れるために減税や土地提供などの優遇政策を実施した。しかし、最近の中台関係悪化で、こうした優遇政策はほとんどなくなり、逆にさまざまな理由で多額な罰金を科される企業が増えたという。
台湾の経済評論家、謝金河氏は「法律に基づかない政治判断で企業が翻弄されることが大きなリスクだ。中国におけるビジネス環境が悪化しており、このようなことが続くと、台湾を含め外資系企業の中国からの撤退ラッシュが起きる可能性がある」と指摘している。