朝晴れエッセー

トロリーバス・11月25日

母にねだっては横浜駅西口にある百貨店に行くのが小さい頃の楽しみだった。

当時は子供が多かったこともあると思うが、あの大きな店の5階のほとんどがおもちゃ売り場だった記憶がある。

横浜の高台の家から駅まではバスを使う。市営の普通のバスとトロリーバスが走っていた。丸い顔をしたトロリーバスに僕は乗りたいのだが、気取った感じの市営バスが先にやって来ると全くガッカリだ。

次を待とうよと母に言っても受け付けてくれない。トロリーバスは後ろの座席が上下にボヨヨーンと揺れるので、手すりを握って乗るのが気持ちいいのだ。

バスは西口のロータリーに入ると急に止まることがよくあった。そうすると運転手が外に出て、長い棒で外れたパンタグラフを架線に戻す作業をする。今考えると運転手も命がけだなあ。

時代は過ぎて横浜どころか日本中でトロリーバスがほとんど見られなくなり、その姿は仕事で海外に行ったときに目にするようになった。

メキシコや欧州で皆不思議と丸く優しい顔をした現役の彼らと会った。

それもコロナ禍でかなわず、今は模型のトロリーバスを並べ、爺(じい)さんが小さなパンタグラフを、佐藤春夫の詩ではないが「あやつりなやみつつ」楽しんでる。

佐藤仁志 61 群馬県館林市