自動車部品などを手掛ける大豊精機(愛知県豊田市)と印刷業のデジタル総合印刷(大阪市東住吉区)は、3次元(3D)スキャナーで撮影した工場のデータなどを活用し、設備の搬出入作業をシミュレーションできる新システムを開発した。遠隔地にいながらオンライン上で打ち合わせができることなどから、工程やコストの削減が可能。新型コロナウイルス禍のリモートワーク需要にもつなげる狙いだ。
新システム「BUNSHIN(ぶんしん)」は、工場と新たに導入を計画する設備などを、編集可能な3Dの実寸データで再現できるのが特長だ。関係者が現場へ集まり何度も作業を検討しなくても、搬出入のための動線の確保や、必要な作業人数などをパソコン上でシミュレーションできる。「工場の設備導入やレイアウト変更の作業をDX化できる」と大豊精機とデジタル総合印刷の担当者はアピールする。
使用するのは1秒間に100万点のレーザーを発する3Dスキャナーだ。レーザーが物体に当たり、跳ね返りにかかった時間から計測した距離で、工場をまるごと点群(点の集合)データに再現。さらに搬入する設備の3DCAD(コンピューター利用設計システム)データをCG(コンピューターグラフィックス)に変換し、工場の点群データと融合させた上で、独自技術によりオブジェクト(物体)を消したり動かしたりと編集できる「点群モデル」にした。そうすることで「大型の機器を置くには階段を撤去しなければならない」といったことが、現場にいなくとも容易に想定できるというわけだ。
利用料金は工場や導入設備の規模にもよるが、延べ床面積1000~1500平方メートルで300万円(税別)から。紙の設計図を用いた搬出入は事前のすり合わせに大体3~4カ月が必要だが、「BUNSHIN」なら10日間で点群モデルにできる。打ち合わせの回数も減らせるという。
8月には大阪・西九条にある印刷会社の工場で印刷機の導入にあたり採用された。フォークリフトや作業員をデータ上に配し、搬入をシミュレーションしたことで、導入当日は余分な作業をする必要がなく、すぐ作業にとりかかれた。動線を広く取ろうと必要以上に物を動かさずに済んだため、工場の稼働を一時的に止めることもなかったという。システムを採用した印刷会社は「コロナ禍で集まれない中、オンラインで現場の状況を理解し、十分にすり合わせができた」と喜ぶ。
大豊精機の担当者は「工場には図面にないものが多く、作業にあたっては工場長や現場のベテランのノウハウが欠かせなかった」といい、「それでもいざ搬入しようとすると収まらない、物にぶつかるというアクシデントも多い」と新システムの利点を強調する。
今後は2025(令和7)年開催の大阪・関西万博でも売り込む方針だ。万博に出展される各国のパビリオンは個性的な内装デザインで、内部には特殊な設備が置かれることが多い。設置や準備に携わる業者も多いとみられ、「データを関係者に配れば離れた場所からも打ち合わせができ、作業もスムーズにできるのではないか」と期待を寄せている。(田村慶子)