魅せる観光地の作り方

輝き取り戻す迎賓館、文化財生かす企業の力

明治時代に建設された施設でフランス料理が味わえる三井港倶楽部
明治時代に建設された施設でフランス料理が味わえる三井港倶楽部

フランス料理と九州の食材が融合した一皿は、思わず声が出るほど美しい。福岡県大牟田市で体感できるフランスの食文化に、多くの人が感嘆している。

平成30年4月にリニューアルオープンした明治時代建設の施設を使ったレストラン「三井港倶楽部」。大牟田市は福岡県最南端にあり、集客にハンディを抱えるが、「記念日」利用などのニーズをつかみ、週末のランチは多くの予約が入る。

人気の理由は料理のクオリティにある。「フレンチの鉄人」として知られるシェフの坂井宏行氏が監修し、坂井氏がオーナーを務める高級レストラン「ラ・ロシェル」が運営を支援する。東京・南青山の総料理長が指導に入り、季節ごとにメニューを変える。東京レベルのフレンチが大牟田で味わえ、使われる食器も含めサービスは一流。歴史ある建物で堪能できる優雅な時間が満足感につながっている。

 「ミニャルディーズシュクレ」と呼ばれる食後の菓子。フランスの食文化も伝える
「ミニャルディーズシュクレ」と呼ばれる食後の菓子。フランスの食文化も伝える

総支配人の片山貴詔(たかつぐ)氏(43)はラ・ロシェル福岡で10年務め、磨いた経験を運営に生かす。「スタッフには『大牟田で高いフレンチは流行(はや)らない』という考えはやめようと言ってきた。おいしい料理を味わいに地方から東京に行く人もいる。質のよいサービスを提供すれば大牟田にも人を呼び込める」と語る。

数字に出ない価値

施設は明治41年に建設された。市の指定文化財や経済産業省の近代化産業遺産にも認定されているが、何度か閉鎖の危機に直面してきた。

 料理やデザートは訪れる人に感動を与える
料理やデザートは訪れる人に感動を与える

大牟田は日本最大級といわれた三井三池炭鉱と歴史を歩んだ。施設は開館当時、海外の高級船員の宿泊や接待の場として使われた。その後三井グループの迎賓館となったが、所有する三井鉱山(現日本コークス工業)が経営難から平成16年に閉館。地元有志が保存会を発足して救済し、10年以上レストランを運営したが、継続は難しく、現在の所有者である三井松島ホールディングス(HD)に継承依頼が寄せられた。

同社は福岡市に本社があり、大正2年に長崎県の松島で採炭を手掛ける会社として創業した。創業108年を迎えた今も石炭事業を展開する。創業時の出資企業に三井鉱山があり、地域貢献と縁を理由に施設を引き受けた。

ただ、同社もレストラン運営のノウハウはなく、本社近くにある「ラ・ロシェル福岡」を参考に、旧迎賓館の格式に見合うサービスを提供したいと坂井氏に協力を要請した。

ラ・ロシェルは料理の監修だけでなく、三井港倶楽部に勤めるシェフの研修も受け入れた。料理長の木村穣司氏(45)は「迎賓館だった施設に見合うレストランにしたいと取り組んだ。料理をレベルアップする機会をもらえたことは大きかった」と話す。

坂井氏も年に2回、有名シェフと一緒に現地で美食会を開き、スタッフは「大牟田でも成功してみせる」という気概を持ってレストランづくりに励んだ。