ビブリオエッセー

開くたびよみがえる人生の指針 「一切なりゆき~樹木希林のことば」樹木希林(文春新書)

昔から樹木希林さんの大ファンだ。若い頃はテレビドラマ「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」を見て、その存在感に圧倒された。数々の映画にも出演したが、いずれも樹木さんなしには考えられない。今の私にとっては彼女の残したことばが日々の指針になっている。

80年代から亡くなる数年前までのことばを集めたこの語録集。初めて読んだときから共感できるところがいっぱいあると感じた。特に第一章の「生きること」。樹木さんが静かに語りかけてくれる。

「求めすぎない。欲なんてきりなくあるんですから」。身の丈にあったレベルでよしとするのも人生だ。「モノがあるとモノに追いかけられます」。若い頃は安物買いの銭失いだったらしい。経験を積んでたどり着いたことばだろう。「人生なんて自分の思い描いた通りにならなくて当たり前」「絶対こうでなければいけないという鉄則はない」。思わずうなずいた。

「人間でも一回、ダメになった人が好きなんです」「しっかり傷ついたりヘコんだりすれば、自分の足しや幅になる」。痛みを知った人の痛みがわかる人だった。

「一生にも二生にも三生にも」というお経の一節もこの本で知ったが、来世があるならこの身も軽くなる。そして「死を感じられる現実を生きられるというのは、ありがたいものですね」という境地に至る。がんになって人生観、心のありようも変わったと語っていた。すべて樹木さんの等身大のつぶやきだ。私は過去を振り返り、自分の体験と重ねて読んだ。

樹木さんが亡くなって3年あまり。長女の也哉子さんが樹木さんのこんな言葉を紹介していた。「おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」。そうありたいと思う。

大阪府茨木市 水口栄一(63)

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