朝晴れエッセー

小さな冒険・11月23日

私は町の子であった。体が弱く大人からきゃしゃな子だといわれていた。

1年生になって学校からの帰り道、広場に荷車のおじさんが3人、一休みしていた。あの時代は地方にはまだ車がなく、運送は牛や馬が荷車を引いていた。

おじさんが手綱を引いて牛馬とともに歩いていた、のどかな時代であった。

1人のおじさんが木につないでいた馬を連れてきて、「嬢ちゃん馬に乗せてあげよう」と言って私をひょいと抱えて馬に乗せた。馬の背中は大きくて高く、私を穏やかに受け入れてくれた。

おじさんは私に語りかけながら広場をゆっくりと一周歩いて下ろしてくれた。馬もおじさんも優しいまなざしをしていた。

駅のホームの横の坂道に立っていると、運転士のおじさんが「嬢ちゃん機関車に乗せてあげよう」と言って私をひょいと抱えて機関車に乗せた。

機関車の中では火をたいており、運転士さんが真剣な姿で火を調節していた。中は高温で、汽笛をならし煙をはきながら轟音(ごうおん)を立てて走る勇壮な機関車の力の源を見せてもらって胸がドキドキした。

線路沿いの小道を歩きながら手をふると、いつも笑顔で手をふってくれた優しい運転士さんの尊い仕事を初めて知った。

私が夫に思い出を語ると、田舎で育った夫は「汽車はいつも遠くから眺めていたなあ…」と羨(うらや)ましそうであった。

ひょいと抱えて乗せてもらった小さな冒険は懐かしい思い出になったが、働くおじさんたちの優しい心は、今も私を温かく支えてくれている。

宇野愛子 77 香川県琴平町