大阪特派員

山上直子 なにわ文化 「船場(せんば)」にあり

「東京の人が大阪というと、粉もんのB級グルメとか吉本興業のお笑いのイメージでしょう。そうやないんやと。そんな悔しさを晴らすことができるのは船場(せんば)しかないと思うんです」

23日まで、大阪市中央区で開催中の「船場博覧会」の実行委員長、池田吉孝さんを訪ねると、そんな熱弁が返ってきた。上品で(これが大事)、長い歴史を持ち、独自の文化にあふれた商都・大阪。それを体感するには、この街こそふさわしいというのだ。

船場という地域をご存じだろうか。現代の大阪ではキタとミナミという二大繁華街が有名だが、その間に挟まれた場所(北は土佐堀川、南は現在の長堀通、東は東横堀川、西は阪神高速道路)である。

その起こりは豊臣秀吉の時代にさかのぼる。大坂城を築き城下町を造(つく)る壮大な都市計画のなかで整備され、今も格子状のまち割りが残る。堺や京都・伏見の商人たちを集めて住まわせたそうで、東西に延びる伏見町通の名前にもその名残がみられる。

文学好き、映画好きの人なら谷崎潤一郎の小説か、それを市川崑監督が映像化した「細雪」を参照するといいかもしれない。佐久間良子さんや吉永小百合さんが演じた四姉妹の実家で、岸恵子さん演じる長女が婿を取り、跡を継いだ本家がある―という設定になっている。角川文庫の注釈には「中心的商店街で、古くから豪商が店をかまえ、高い格式と独特の誇りを持っていた」(「新装版 細雪 上」から)とあった。

「『天下の台所』といわれた大阪を支えたのが船場です。江戸文化よりずっと古い大阪の文化と伝統を発信したい。地元の人にもプライドを持ってほしい」という池田さん。近年タワーマンションが増え、新たな住民の人たちにも歴史を知ってもらいたいそうだ。

知名度の高いところでは、大村益次郎や福沢諭吉を輩出したことで知られる緒方洪庵の「適塾」があるほか、大阪取引所や証券会社が軒を連ねる北浜、製薬会社が並ぶ道修町(どしょうまち)もその中に含まれている。ちなみに、盲目の商家の娘に使用人の男が献身的に仕える谷崎の小説「春琴抄」の舞台は道修町だ。

さてその博覧会だが、平成18年の「船場建築祭」に始まり、20年には「まちのコモンズ」、23年から「船場博覧会」と変化しながら引き継がれてきたという。博覧会となってからも10年以上、「船場を愉(たの)しむ」という目的は変わらない。

今年は17日に始まり23日まで、街歩きや近代建築を巡るツアー、貴重な建物で開かれる寄席や能、上方舞などの古典芸能に親しむ会などを開催。近松門左衛門の「女殺油地獄」や「冥途の飛脚」など名作の舞台となった船場を街歩きで楽しむツアーなども開かれた。

おすすめは、御堂筋と堺筋に挟まれた「三休橋筋(さんきゅうばしすじ)」だ。大きな街路樹が整然と並び、周辺には大阪市中央公会堂をはじめとするレトロな名建築が点在して人気のスポットである。写真映えするのは間違いない。

年中、何かしらにぎわいづくりを計画していて、春2~3月には「船場のおひなまつり」が開かれる。船場ゆかりの旧家に伝わるひな飾りを登録有形文化財のビルや神社などで公開するイベントで、コロナ禍の今年も開催された。来年も開催予定で「船場の歴史や文化の厚みを感じてほしい」という。

グルメ情報も盛りだくさん。老舗料亭「花外楼(かがいろう)」や「高麗橋 吉兆」、享保年間創業で8代将軍徳川吉宗が愛したというウナギの「本家 柴藤」など舌で伝統に触れるもよし。歴史は古いが格式張らないところが大阪の老舗の良さだ。

「『粋』と書いて東京は『いき』と読み、大阪は『すい』と読む。『すい』というのはエッセンスのことで、学ぶにはぜいたくをしないといけません。一方で、大阪では古い家ほど質素です。長く続くにはそれも大事」という池田さん。

普段は質素に、ここぞというときには豪勢に。なにわ文化が少し見えてくる。(やまがみ なおこ)