世界のかたち、日本のかたち

米国の威信揺らぐ今こそ 大阪大名誉教授・坂元一哉

坂元一哉・大阪大学名誉教授
坂元一哉・大阪大学名誉教授

米国の国際政治上の威信低下が進んでいる。きっかけは、米国が8月、アフガニスタンから米軍を撤退させ、約20年続いた米国史上最長の戦争に終止符を打ったことである。米軍の撤退によりタリバン政権が復活したが、食糧不足もあって、深刻な人道危機も懸念されている。

米国民の厭戦(えんせん)感情から見て、撤退自体は驚くべきことではない。また、バイデン政権が米国の「最大の競合国」とみなす中国への対応に集中し、それを強化するためには望ましいことかもしれない。実際、同政権は撤退の約2週間後、オーストラリア、英国とともにインド太平洋の安全保障の枠組み(AUKUS(オーカス))を新設し、中国の海洋進出への牽制(けんせい)を強める構えを見せた。米国はオーストラリアに原子力潜水艦の技術を提供することにしており、オーストラリアはこれにより原潜8隻を保有する予定だという。潜ったままで長距離を航行でき、スピードも速い原潜が8隻、米国とその同盟国側に加われば、中国もそうとう警戒せねばなるまい。また9月24日、日本が最初に提唱した「自由で開かれたインド太平洋構想」実現のための日米豪印4カ国戦略対話(QUAD(クアッド))の対面での首脳会談をワシントンで初めて開催した。この場で4カ国は「インド太平洋およびそれを越える地域において安全と繁栄を強化するため、国際法を遵守(じゅんしゅ)し、自由でひらかれ、ルールにもとづく秩序を推進する」(共同声明)ことを確認した。

ただ、米国が長年かけ育てあげたアフガン政府軍があっけなく瓦解(がかい)し、撤退が大混乱する映像は全世界に衝撃を与えた。中国がバイデン政権与(くみ)しやすしと見て増長する恐れもある。報道によると、中国はこの夏、超高速で飛行し、自在に方向を変えるため迎撃が難しい極超音速ミサイル(核弾頭搭載可能)の発射実験を2度行ったという。

アフガン撤退完了の翌日、バイデン大統領はホワイトハウスで演説し、撤退は12万人を救出する「なみはずれた成功」(extraordinary success)であったと述べ、これは大方の専門家が考えた数の倍以上だと胸を張った。しかし演説に力強さは感じられず、大統領は話が終わると記者の質問を受けることなく無言で会場をあとにした。とても「なみはずれた成功」という言葉に説得力をもたせるものではなかった。大統領を批判する人々は撤退を「大惨事(disaster)」と切って捨てた。

日本は、米国の威信が揺らぐ中、中国や北朝鮮に隙を見せてはならず、日米同盟の抑止力を揺るぎないものにすべく米国と結束を強めなければならない。

2001年、米中枢同時テロが起こりアフガン戦争が始まった年、日本はインド洋に自衛艦を派遣し、米軍への補給協力を開始した。この時の協力は日米同盟を「世界の中の日米同盟」に成長させる第一歩となった。今後は中国の海洋進出への対応はもちろん、アフガンへの外交関与、人道支援などでも米国とよく協力し、双方にとっての同盟の価値をますます高めたいところだ。(さかもと かずや)