書店バックヤードから

学級の起源も解く 「学校」とは何か

大阪の書店員たちがおすすめ本について語り合う「書店バックヤードから」。今回は「学校」をテーマに据えました。学校は学びの場であり、さまざまな活動を通じ経験を育む場ですが、そうした「枠」になじめない子供たちもいます。学校とは何か。そんな問いを投げかけつつ、書店員の皆さんに選書をお願いしました。(司会は文化部・渡部圭介)

スタンダードブックストア・中川和彦さん選

・東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室編『学校の枠をはずした 東京大学「異才発掘プロジェクト」の実験、凸凹な子どもたちへの50のミッション』(どく社)

・高松平藏著『ドイツの学校にはなぜ「部活」がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間』(晃洋書房)

・イングリッド・ミクリッツ著、国土緑化推進機構監訳『森の幼稚園 ドイツに学ぶ森と自然が育む教育と実務の指南書』(風鳴舎)

中川 メインは『学校の枠をはずした 東京大学「異才発掘プロジェクト」の実験、凸凹な子どもたちへの50のミッション』(東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室編/どく社)です。知り合いがやっている大阪の出版社の本で、書店や営業先を紹介したものでして。

東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室編『学校の枠をはずした 東京大学「異才発掘プロジェクト」の実験、凸凹な子どもたちへの50のミッション』(どく社)
東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室編『学校の枠をはずした 東京大学「異才発掘プロジェクト」の実験、凸凹な子どもたちへの50のミッション』(どく社)

持田 うちでも置いてます!

中川 此川先生のお店でも、いい場所に置いていただけると…。

此川 考えます(笑)。大阪の出版社なのに東大の話なんですね。

中川 編集に携わった人たちは福岡で中学生にヒアリングしながら図書館をプロデュースするなど、活動が大阪に限らず、いろんなつながりがあるようで。学校にはなじめない子供を助けようというところから始まった、プロジェクトの記録です。

渡部 どんなプロジェクトなのでしょう。

中川 先生が50のミッションを出し子供たちが挑みます。「イカの墨袋を破らずに取り出し、パエリアをつくれ!」とか無理ばかり。でも「常識」だと思っていることが、なぜ「常識」なのかを考えさせられます。うちの店でも、子供が進学校に通うという母親が「こういうことせな、あかんよね」とつぶやいて買っていきましたね。

紀伊国屋書店アリオ鳳店店長・此川洋平さん選

・柳治男著『〈学級〉の歴史学 自明視された空間を疑う』(講談社選書メチエ)

・上野千鶴子著『サヨナラ、学校化社会』(ちくま文庫)

・天野郁夫著『学歴の社会史 教育と日本の近代』(平凡社)

此川 流れとしては僕も同じですが。メインの『〈学級〉の歴史学 自明視された空間を疑う』(柳治男著/講談社選書メチエ)は学級つまり、クラスというものの成立の歴史を解き明かします。

柳治男著 『〈学級〉の歴史学 自明視された空間を疑う』(講談社選書メチエ)
柳治男著 『〈学級〉の歴史学 自明視された空間を疑う』(講談社選書メチエ)

渡部 学級の起源なんて考えたことがない。

此川 簡単にいうとお金がない人の娯楽として生まれたパックツアーと一緒です。安く、多くの子供に教育を受けさせるため生まれたそうです。

持田 パックツアーは苦手。昔あった社員旅行なんて苦痛で…。

此川 パックツアーは行動に制限があっても安いからと我慢できますが、学級は我慢できなくても組み入れられます。先生がこの本を読んで「そうだ!」と思っても、どうすればいいのかは書かれていません。「そもそも学級の歴史を知っていますか」という本で、2005年の刊行ですが、学級崩壊だとか少人数教育だとか、すべて学級が前提にある課題や議論がある今、評価されている本だと思います。

MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店・持田碧さん選

・水木しげる著・イラスト『猫楠(ねこぐす) 南方熊楠の生涯』(角川文庫)

・金成隆一著『ルポ MOOC革命 無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店)

・黒柳徹子著『窓ぎわのトットちゃん』(講談社文庫)

持田 3人とも、どことなく同じ流れになってしまいますが。私は南方熊楠(みなかたくまぐす)を描いた漫画『猫楠(ねこぐす) 南方熊楠の生涯』(水木しげる著・イラスト/角川文庫)です。

中川 熊楠、来た!

水木しげる著・イラスト『猫楠 南方熊楠の生涯』(角川文庫)
水木しげる著・イラスト『猫楠 南方熊楠の生涯』(角川文庫)

持田 神童といわれるくらい記憶力がすごいのですが、学校では国語系が強いから、そこで点数を稼ぎ残りは白紙。労力を使わずに落第しないようにして、山中を歩き回っては植物、虫を探しています。

渡部 熊楠の最終学歴って何だろう。

此川 大学中退、ですかね。

持田 〝キング・オブ・学校に行かなかった人〟ですよ。東大もいられなくなったし、アメリカやイギリスにも長く行っていますが、向こうの学者を論破したら暴力事件になって、もうめちゃくちゃ。それでも科学雑誌「ネイチャー」にたくさん論文が載っているという、自学自習の在野の研究者です。

中川 和歌山の南方熊楠記念館に行った? すごい人だよね。

持田 行きました。というのも私も留学経験がありますが、日本では周囲から英語ができるとみられていても、現地では渡り合えず心が折れたんです。でも熊楠を知り、枠にとらわれず好きなことを追究するそのバイタリティーに、なんか元気になったんです。

渡部 学校という枠のあり方を見つめ直す選書となりましたが、枠にはまらなそうな中川さん、いかがですか。

中川 こういう生き方はしんどいぞ…って僕、そんなに気楽に見えますか。まあ1年の大半は短パンにTシャツですけど。

大阪にある本屋さんの書店員たちが集まり、毎月テーマに沿ってそれぞれが本を選び、語り合います。