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防げ凄惨な虐待死 脱「児相任せ」 介入専門の組織を 大阪社会部長・牧野克也

虐待加害者から幼い命を守るには、家庭という密室で行われる虐待のにおいを嗅ぎ取り、リスクを見極めることが重要になる。

緊急性が低いケースでは、家庭に身近な市町村が一義的に対応し、都道府県などに設置された児童相談所(児相)が専門的な立場から支える。緊急性が高まれば、児相が保護者の同意なしで家庭から子供を引き離す一時保護などの緊急介入措置を取る。

大阪府摂津市で8月、3歳男児が母親の交際相手の男から熱湯を浴びせられ、殺害された事件は、児相を核とする安全網からこぼれ落ちたケースだった。

母子と男が同居を始めた5月、市には母親から「男が子供の頰をたたいた」と相談があり、その前後にも母親の知人や保育園から「このままでは殺される」「左耳付近にあざがある」といった情報が入った。児相と市は母親を「暴力を止められないネグレクト(育児放棄)」と判定する一方、外傷が確認できないとして緊急性が低いとのリスク評価を維持。市による見守り支援にとどめていた。

本来、乳幼児の頭部顔面の傷は命に関わる緊急事態と感知すべきシグナルだが、市は5月の母親からの相談に、すぐに目視でけがの有無を確認していない。母親、男と面談して注意しただけだ。左耳付近のあざも「よく転ぶ子」などという母親の説明を信じ込み、男児との個別面談を一切していなかった。

ここまで嗅覚が鈍化した要因に、見守りを担う市側の脆弱(ぜいじゃく)な体制を挙げる声は強い。年間約700件の事案を職員5人で分担。児相と情報を共有する会議も1回の会議で100件以上を取り扱い、1件あたりの時間は数分程度だった。男児の事案が埋没し、児相が具体的なリスク評価や助言をしなかった―との指摘もある。確かにマンパワーの問題は大きい。が、それだけに目を奪われると本質を見失う。着目すべきは、情報共有会議の形骸化をもたらす児相の体質なのだ。

会議には児相で虐待相談全般を担う部署の複数の職員が参加したが、いずれも支援、介入という相反する役割を兼務していた。児相の虐待対応は支援対象である保護者との対立を避けるため、介入をためらう方向に傾きがちだ。会議では、市と同じく虐待兆候を軽視、黙殺するバイアスがかかっていなかったか。

この体質は児相が宿命的に内包する。国は支援、介入担当の職員と部署の分離を求めているが、対応が追いついていない。仮に同じ児相内で分離したとしても効果は微妙だろう。虐待対応の急増で児相も一時保護を積極的に進めているものの、介入が見送られ、子供が命を落とす事件は後を絶たない。

業務負荷が増大した児相の新設、増員などの体制強化は重要だが、焼け石に水だ。それよりも関係機関を含む抜本的な機能再編を優先すべきではないか。

まずは介入への司法審査の導入だ。海外では一般的に一時保護など親子を分離する際は司法が審査する。日本は一時保護が2カ月を超える場合に家庭裁判所の承認が必要だが、それ以外は児相の権限で判断する。

厚生労働省は今月、保護者が一時保護に同意しない場合、裁判所が「一時保護状(仮称)」の発付可否を審査する制度案を発表した。来年の通常国会に児童福祉法改正案提出を目指す。悪くない仕組みだと思う。保護者の納得が得られやすくなり、不要な介入を防ぐ担保にもなる。今後、司法関与の領域をさらに広げた方がいい。

児相に目を転ずれば、業務の中核は家庭や子供支援であり、下手をすれば保護者と敵対する介入はそもそもなじまない。例えば通告受理・介入の機能を児相から切り離してはどうか。調査に特化した介入専門組織を新設するのだ。支援に専従する児相との情報共有会議でもリスクを拾い上げ、警察・司法と連携して迅速な保護につなげる。

とにかく児相任せからの脱却が肝要だ。役割分担を戦略的に突き詰めた制度設計こそが、救える命を救うカギを握ると考える。 =次回は1月10日掲載予定

【用語解説】児童相談所

児童福祉法に基づき、子供の福祉や権利擁護のため都道府県や政令指定都市などが設置する行政機関。4月現在で全国に225カ所。虐待を受けた子供の一時保護(原則2カ月以内)や保護者指導に加え、家庭に立ち入り調査する権限もある。全国の児相が対応した虐待件数は昨年度20万件を超え、過去最多を更新。国は児童福祉司の増員など児相の体制強化を打ち出している。