韓国の文在寅大統領が政権末期の最優先課題として取り組んでいる朝鮮戦争の〝終戦宣言〟は、文氏が主張するように「完全な平和の出発点」(今年9月、国連演説)ではなく、戦後、日米韓が構築してきた東北アジアの安全保障体制を壊す危険な賭けだ。
文氏は「終戦宣言は政治宣言にすぎないので北朝鮮が約束を守らなかったらいつでも取り消すことができる」(2018年9月)とも主張、外交力を総動員して国際社会の説得に躍起だが、いま文氏がやるべきは核開発やミサイル実験をやめようとしない金正恩総書記の説得ではないか。文氏は、終戦宣言を金氏との対話のためのお土産程度と考えているようだが、それは国際社会を欺くものだ。
金正恩氏への「免罪符」
まず終戦宣言は金正恩政権に免罪符を与えるものだ。1950年6月、北朝鮮の突然の侵攻で始まった朝鮮戦争中に北朝鮮軍は約10万人に上る韓国人を拉致した。韓国軍捕虜らは行方不明者を含め8万2千人に上り、休戦後も多くを抑留し続け、韓国側に引き渡したのは8300人にすぎない。
韓国「拉北者家族協議会」理事長は、戦争を引き起こした責任の糾明、責任者処罰は別にしても「拉北(拉致)問題解決なしに終戦宣言は絶対だめだ。このような問題をなかったことにはできない」(10月、RFA)と終戦宣言を急ぐ文氏を批判する。