点滴連続中毒死事件 被告の元看護師に「無期懲役」判決の衝撃

逮捕される前の久保木愛弓被告=平成29年12月8日、横浜市鶴見区
逮捕される前の久保木愛弓被告=平成29年12月8日、横浜市鶴見区

横浜市の旧大口病院(現・横浜はじめ病院、休診中)で平成28年、入院患者3人の点滴に消毒液を混入させ中毒死させたとして殺人罪などに問われた元看護師、久保木愛弓(あゆみ)被告(34)の裁判員裁判の判決公判が9日、横浜地裁であり、家令(かれい)和典裁判長は「更生可能性も認められる」として無期懲役を言い渡した。3人を殺害しての極刑回避という結果に久保木被告を逮捕、起訴した神奈川県警と横浜地検には現在も、衝撃が走り続けている。

「生命軽視の度合いも強い」「動機も身勝手極まりない」。主文を後回しにし、犯行を断罪する裁判長の言葉に、その場にいた誰もが死刑宣告を意識したに違いない。そのため判決理由の最後の最後で「死刑を選択することには躊躇(ちゅうちょ)を感じざるを得ず」として無期懲役が言い渡された瞬間、横浜地裁101号法廷の空気は凍り付いた。

「いかんともしがたい」

判決によると、久保木被告は28年9月、勤務していた旧大口病院で、入院患者の興津朝江さん=当時(78)、西川惣蔵さんと八巻信雄さん=ともに同(88)=の点滴内に、医療器具の消毒などに用いられる消毒液「ヂアミトール」を混入させ中毒死させたほか、別の患者に投与予定の点滴袋5つに消毒液を混入し、殺害する準備をした。

「勤務時間中に患者が亡くなると、家族に説明しなければならない」-。自分がいないときに死んでほしいと、犯行を繰り返したとされる久保木被告。公判ではこの当時の被告の刑事責任能力の程度が最大の争点となった。検察側は完全責任能力があったと主張し、死刑を求刑。弁護側は心神耗弱状態であったとして無期懲役に処すのが相当と訴えていた。

だが、家令裁判長は完全責任能力を認めつつも、久保木被告がもともと対人関係などに難があるなど看護師としての資質に恵まれず、犯行の動機形成過程には「努力ではいかんともしがたい事情」があったと説明し、法廷で「非常に苦しい評議でした」と、悩みに悩んでの判決だったと打ち明けた。

遺族の表情には…

最終意見陳述で、久保木被告は「死んで償いたい」と述べている。本人にとっても無期懲役判決は意外だったのか、証言台から弁護側の席に戻るときの横顔は呆然(ぼうぜん)としているようにも見えた。

一方の検察側。天をあおぎ、途方に暮れる検察官の後ろには被害者参加制度に基づき、公判の行方を見守り続けてきた遺族の姿があった。論告求刑公判では検察側の死刑求刑に先立ち、遺族本人、あるいは代理人弁護士が久保木被告に憤りの気持ちを伝えている。

判決を受け、家族を奪われた遺族らの表情には正視しがたいほどの怒りと悲しみ、悔しさがにじみ出ていた。閉廷後、西川さんの長女は代理人を通じて「被告人は、少なくとも生きていくことは許されたわけですが、ではこれからどうやって償っていくのかという思いです」と心境を吐露した。