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渓谷縫う昭和の雄姿 見納め 381系特急「やくも」 JR岡山駅-出雲市駅

特急「やくも」が、車体を傾けカーブを曲がる。「振り子式」構造の採用は、旧国鉄では初だった =岡山県新見市(鴨川一也撮影)
特急「やくも」が、車体を傾けカーブを曲がる。「振り子式」構造の採用は、旧国鉄では初だった =岡山県新見市(鴨川一也撮影)

トンネルを抜けた瞬間、稜線(りょうせん)から車内に光が差し込んできた。眼下の川面がまぶしい。列車は中国山地の渓谷を縫うように進む。幾つものカーブを曲がり、橋を渡り、高梁川を越えていく。

車窓を流れる緑の木々と秋の雲。時折、この地に特有の白く削れた崖や石州瓦の赤褐色の屋根も見える。JR西日本の岡山駅(岡山市)と出雲市駅(島根県出雲市)を結ぶ、特急列車「やくも」の車窓は色彩に満ちあふれていた。

どこかレトロさを感じるフォルムと色使い。まもなく見納めとなる =岡山県新見市(鴨川一也撮影)
どこかレトロさを感じるフォルムと色使い。まもなく見納めとなる =岡山県新見市(鴨川一也撮影)

どこか懐かしさを感じる車体に赤色のライン。381系。旧国鉄時代の昭和48年に登場した車両だ。採用されている「自然振り子式」は当時の最新技術。カーブで車体を大きく傾斜させることで速度を大きく落とさずに曲がれる。カーブが多く、起伏が激しい日本の鉄道のさらなる高速化に貢献した。

中央線や紀勢線などで活躍してきたが、現在、定期運行で走るのはやくもだけになった。

沿線の備中川面駅(岡山県高梁市)前で生まれ育った丸山智美さん(43)は「決まった時間に通るやくもは時計代わり。停車駅ではなくても、通過を時報のように聞いている地元住民は多いです」と話す。

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381系は令和5年ごろから順次、新たな車両に置き換わる計画がある。活躍する姿が見られるのもあとわずかだ。

祖父も父も旧国鉄やJRで働いていた丸山さん。「生活の風景に溶け込んでいるなじみの電車。引退が近づいているとは驚きました」という。

昭和から平成、令和と駆け抜けてきた、やくも。これからは、人々の思い出の風景の中を走ることになる。

(写真報道局 鴨川一也)

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