書評

『雲上の巨人 ジャイアント馬場』門馬忠雄著 「誇り高き日本人」に触れる

評者が幼少の昭和の頃、ジャイアント馬場といえば野球界のスーパースターON(王貞治氏と長嶋茂雄氏)に匹敵する国民的大スターだった。

評者が青年の平成の頃、ジャイアント馬場といえばバブル崩壊以後、底が抜けたように崩れ去っていく日本社会の中にあって古き良き日本を象徴する数少ない巨大な存在だった。

そして、1999年、評者が北欧留学中、極寒の地にそんな馬場さんの訃報が届いた。

巨星、落つ――。

その時、あの馬場さんの明るく楽しく激しい王道プロレスはこの世から消え去るのだろうと直感した。評者はそれから、そんな哀(かな)しき予感を何とか打ち消すべく今でもリングの中の現役レスラーたちの中に、馬場さんの影を見いだそうとしている。

「僕たちは、馬場さんが好きで好きでたまらなかった。」

『雲上の巨人 ジャイアント馬場』のこの帯の言葉を目にしただけで、文字通り「たまらない」心持ちでいっぱいになった。

本書を著した門馬忠雄氏は、若手レスラーだった26歳から61歳で亡くなるまでの35年間、馬場さんと誰よりも深い親交を温めた記者だ。そんな門馬氏の本だからこそ、われわれはこれまで知らなかった、しかしどれ一つとっても全て「馬場さんらしさ」全開のエピソードの一つ一つに触れることができる。

読者はおそらく、そんな馬場さんの魅力の本質をそれぞれに見いだすこととなろう。そして評者のそれはやはり、馬場さんこそがこの戦後日本で急速に絶滅しつつある「古き良き日本人」だったのであり、戦勝国・米国に決してこびず文字通り対等に渡り合うことができる「誇り高き日本人」だったというところにあった。

本書は、馬場さんを知らない人でも「日本」に興味関心がある限りにおいて多くの示唆を得ることができる。馬場さんを好きだった人はもちろんのことあらゆる世代の人々もまた、本書を通して馬場さんの佇(たたず)まいに触れてみてはいかがだろうか。

決して損はない。馬場さんはそれだけの人物なのだ。

そんな本書をぜひ、一人でも多くの日本の皆さまに手に取っていただきたい。評者はそう、切に願う。(文芸春秋・1870円)

評・藤井聡(京大大学院教授)