ベラルーシで「拷問」 イラク男性EU移住果たせず帰国

取材に応じたカンヌースさん(本人提供)
取材に応じたカンヌースさん(本人提供)

【カイロ=佐藤貴生】中東の人々がベラルーシ入りしてポーランドなどとの国境に殺到した問題で、欧州連合(EU)への移住を果たせずにイラクに戻った男性が19日、産経新聞助手の電話取材に応じた。この男性は、ベラルーシの国境警備隊員に見つかって連行され、「拷問された」と証言した。旅券や携帯電話などを取り上げられた上、棒などで殴打されたという。

男性はイラク北部モスルに住むジヤブ・カンヌースさん(30)。ベラルーシからイラクに帰国する人を乗せた第1便が18日、同国北部の主要都市アルビルに到着。カンヌースさんらは、この便で帰国した。

カンヌースさんは、「欧州入りを目指して多くの人がベラルーシに向かっている」との報道やSNS(会員制交流サイト)からの情報で、妻と子供6人を連れて出国することを決意。イラクの首都バグダッドで旅行会社に8人の費用計2万4千ドル(約270万円)を支払い、10月中旬にドバイを経由して、ベラルーシの首都ミンスクに入った。

到着翌日、現地の業者にいわれた通りにパンやチーズ、果物や水などを買い込み、35人ほどの集団でタクシーに分乗してポーランド国境付近に向かった。氷点下まで気温が下がる森林地帯で10日ほど過ごし、欧州入りの機会を待った。「野生動物がいるので、たき火をして女性と子供を男性が取り囲んで寝た。泥水も飲んだ」と状況を語った。

ところがベラルーシの国境警備隊員に見つかって暴行を受け、さらにリトアニア国境に車で連れていかれて、そこでも、「お前たちは動物以下だ」などといわれて棒などで殴られた。

カンヌースさんは足を痛めて歩行不能になり、帰国便が出ると聞いてイラクに戻ることを決めた。現地では治療は受けられず、帰国してから病院に行った。

カンヌースさんは、イラク北部の山岳地帯出身の少数民族クルド人。クルド人はイスラム教スンニ派過激組織イスラム国(IS)など過激派から敵視されており、近隣住民からも差別を受けているといわれる。

「親戚も誘拐されたり殺害されたりしており、子供たちによりよい人生を送ってほしいと思った」。そう出国の動機を語ったカンヌースさんは、「カネは使い果たし、負傷して働くこともできない。ひどい旅だった」と嘆いた。クルド人を中心とするイラク人はベラルーシに入った中東の人々の中でも多数派で、推計約4千人に上るとされる。