編集者のおすすめ

『残月記』 圧倒的引力感動必至の中編集

『残月記』(双葉社)
『残月記』(双葉社)

□『残月記』小田雅久仁著(双葉社・1815円)


作家の東山彰良氏、真藤順丈氏、書評家の大森望氏、豊﨑由美氏らも絶賛の作品が誕生しました。真藤氏をして「現代小説の最高峰」と言わしめたその作品は『残月記』。第3回Twitter文学賞国内編第1位受賞の『本にだって雄と雌があります』から、9年。刊行が熱望されてきた「鬼才・小田雅久仁」の新刊です。

全編「月」をモチーフに、計り知れぬ想像力で構築した3つの異世界を舞台にした物語は、とてつもない引力で読み手の心を惹きつけます。

表題作は、独裁政治下にある近未来の日本が舞台。人々が恐れる感染症「月昂(げつこう)」に冒された男の宿命と、傍らで生きる女とのいちずな愛を壮大なスケールで描いています。

原稿をいただいたのは平成30年。その日味わった感覚は今でも強烈に身体に刻まれています。ラストの一行を読み終え、会社の席でしばし放心していたほどです。同僚に「すごいもの読んじゃった…」とつぶやいていました。何度原稿を読み返しても、その興奮と感動は目減りせず、むしろ強度を増していきました。

もちろん他の2編も圧倒的なリーダビリティを誇ります。日常と地続きに存在するもう一つの世界を迫真のリアリティーで描いた「そして月がふりかえる」。小田さんが愛してやまないファンタジーの要素をたっぷりと詰め込んだ「月景石」。全編読み終えた人たちが、それぞれのイチオシ作品について話し出すと止まらない、そんな幸せな光景を生みだしている中編集です。

(双葉社文芸出版部 反町有里)