記者発

長いトンネル、道のりをともに 社会部・緒方優子

親任式で天皇陛下から任命を受ける岸田文雄首相。奥中央は松野博一官房長官=10日午後7時31分、皇居・宮殿「松の間」(代表撮影)
親任式で天皇陛下から任命を受ける岸田文雄首相。奥中央は松野博一官房長官=10日午後7時31分、皇居・宮殿「松の間」(代表撮影)

「重任ご苦労に思います」

10日、皇居で行われた第2次岸田文雄内閣の親任式・認証官任命式で、天皇陛下は閣僚らにこう言葉をかけられた。組閣のたびに繰り返される光景だが、間近に見ていると毎回、新鮮な気持ちになる。

官記を受け取った閣僚らは1人ずつ、陛下に向かって一礼する。礼の長さは人により異なるが、陛下は必ず相手が顔を上げるのを待って視線を合わせ、先のお言葉を述べられる。公平さを保ちながら、心を込めてかけられるお言葉が、閣僚らの姿勢を正し、新たな気持ちで国政の現場へと向かわせていると感じた。

伝統的な形式に倣いながらも、陛下の所作やお言葉が今の時代に生きる人の心を動かすのは、どの瞬間にも、全身全霊で国民とともにあろうとする陛下の「なさりよう」というほかない。皇室の存在は災害時などに注目されることが多いが、そのなさりようが日々切れ目なく続いているからこそ、日本という国の輪郭が保たれている。

新型コロナウイルス禍のこの2年弱は、極めて異質だった。特に、代替わりという歴史的行事を多くの人が目の当たりにした一昨年と比較すると、国民と皇室の接点は格段に減少した。天皇、皇后両陛下のお出ましはリモートの「オンライン行幸啓(ぎょうこうけい)」が定着し、東日本大震災から10年の被災地訪問も見送られた。

それでも皇室の活動は切れ目なく続いている。一人でも多くの命と健康を守るため、両陛下はマスクをつけ、距離を保ち、リモート会議システムの画面の中に入ることを選ばれた。直接の触れ合いを重視するこれまでのご活動の在り方に照らせば、「致命的」ともいえるような制約は、コロナ禍という長く、暗いトンネルの中を進む国民と、道のりをともにする「なさりよう」でもあったと思う。

「日本の皇室は、国民を先頭で引っ張るのではなく、後ろから支える存在」。陛下に近い関係者から以前、こんな言葉を聞いた。新規感染者数が低水準となった今、従来に近いお触れ合いを再開してもいいのではないか、と思うこともある。ただ、先頭でかすかな光が見えても、多くの人がまだ、トンネルの中から抜け出せていない現状もある。「慎重すぎる」という指摘はまだ、当たらないのかもしれない。

【プロフィル】緒方優子

平成22年入社。神戸、水戸勤務の後、27年から東京本社社会部。原子力取材班、警視庁捜査1課担当を経て、現在宮内庁を担当。