政府が19日に閣議決定した経済対策には岸田文雄首相が先の自民党総裁選や衆院選で掲げてきた「新しい資本主義」など肝煎りの政策が並ぶ。首相は特に看護師や介護士らの給与引き上げ策にこだわり、成長と分配の好循環を目指す。目に見える成果につながるかが来夏の参院選に向けた政権の浮沈を左右する。
「新型コロナウイルスで困った方々を支え、傷ついた経済を回復軌道に持っていきたい」
首相は19日の産経新聞などのインタビューで財政支出が過去最大の55兆7千億円に上る大型経済対策の意義をこう強調した。
首相は周囲に「持論は分配だ」と語るが、衆院選の選挙期間中は「分配ばかり重視するのか」との批判も念頭に「成長」への言及を増やした。衆院選の結果は自民が単独で絶対安定多数を確保。民意を得た首相は経済対策に持論の分配策をちりばめた。
公的な仕組みで給与が決まる看護師や介護士らへの処遇改善に向けては、後藤茂之厚生労働相らは何度も官邸に足を運び首相と協議を重ねた。国が率先して賃上げを実行することで民間の賃上げの呼び水にする狙いがある。
首相はかつて財政再建に重きを置き、「財務省寄り」とされた。だが経済対策では、困窮する学生に10万円の緊急給付金を支給することを即決。同省案は当初5万円だったが倍増をのませた。さらに渋る同省を押し切って雇用調整助成金の特例を来年3月まで延長することも決めた。
新型コロナ対策の行動制限の緩和も決定し、首相は感染状況を見極めながら経済を回す難しいかじ取りを担う。険しさを増す外交・安全保障環境への対応も待ったなしだ。本格政権への関門として来夏に参院選が控える。首相側近はその処方箋をこう語る。
「奇をてらわず、政策を着々と進めていくことが重要だ」(長嶋雅子)