心と体に変調が…「国際男性デー」に考える男性ホルモンの働きと影響

11月19日は男性の健康に目を向けジェンダー平等を促す「国際男性デー」。「男性ホルモン」が心身に与える影響を研究している専門医の間では、中高年や子育て、若年層などの各世代で男性の心身に表れる「変調」に注目が集まっている。社会的な環境の変化が、性ホルモンに大きく作用していることも分かってきた。どうすれば世代ごとの「男性の危機」を乗り越えられるのか-。性ホルモンの働きを正しく知ることが、人生100年時代をよりよく生きるには不可欠といえそうだ。

当てはまる? 男性更年期障害の症状

東京都文京区にある順天堂医院。泌尿器科にあるメンズヘルス外来には、「男性更年期障害」など男性特有の不調に悩む患者が月に200人以上訪れる。

診療を担当する順天堂大学大学院の堀江重郎教授は、約20年前に日本で初めて男性更年期の専門外来を同院でスタートさせた。

男性更年期障害では、心身にさまざまな症状が現れる。筋力低下、筋肉痛や関節痛、ほてりや発汗など女性の更年期障害と同じ症状のものや、肥満、頻尿も含まれる。男性特有なものでは、性欲の減退や勃起力の低下を招く。

心の症状では不眠や意欲の喪失、うつ症状、集中力や記憶力の低下が生じる。イライラするのも男性更年期障害の症状だ。

「内科や精神科にかかっても改善せず、紹介を受けてメンズヘルス外来にくる人も増えている」と堀江教授は語る。

人間の基本、ホルモン

そもそも、男性ホルモンはどういった働きをするのか。

堀江教授によると、男性ホルモンのテストステロンは、性別にかかわらず、人間が生きていくのに必要な基本的なホルモンだ。

医学的には、骨や筋肉をつくり、動脈硬化を防いだり、脂肪が増えるのを抑えたりする。判断力や理解力など脳の認知機能、感情面にも作用し、生殖機能を維持する役割も果たす。

堀江教授は、こうしたテストステロンの役割を、狩猟採集時代の人類の生活に例えて説明する。

「簡単に言えば、テストステロンは、狩りに出かけていく『意欲』、獲物を捕まえるための『認知力』、移動するための『体力』を支えるホルモン。獲物を捕まえて家族から『承認』されることで、ホルモン値が上がると考えられています」

現代社会においては、社会的、経済的な活動が〝狩り〟にあたり、社会生活を送るために必要なホルモンといえそうだ。

予防のカギは「認められる居場所」

男性にとってテストステロン分泌のピークは20代とされる。40代以降になると徐々に低下していく。

肝臓病などの病気が引き金になる場合もあるが、堀江教授によると、分泌低下に大きく作用するのは、男性を取り巻く「社会的な環境」であることが、近年の研究で分かってきた。

男性更年期障害を予防するうえで特に大切なのは、自分が認められる居場所を持つことだ。

「仕事に限らず、趣味を持ったり、地域の少年団のコーチをしたり、家事を担い家族から感謝されることもホルモン値上昇につながります」(堀江教授)

十分な睡眠と適度な運動、リラックスする時間を持つことも大切だ。

射精できず…性教育が必要な男性たち

一方、若年層の男性では不妊の悩みを抱える人が増えている。

聖隷浜松病院(浜松市)で、リプロダクションセンター長を務める泌尿器科医の今井伸医師は、中でも性機能障害を抱える男性患者の増加を危惧している。

平成27年度の厚生労働省による男性不妊に関する調査研究によると、男性不妊の原因で、勃起や射精ができない割合は13・5%を占めた。

「性交しても気持ちよくない、射精ができない、自慰をしたことがないという人が増えている。患者さんの話を聞くと、思春期に適切な知識や自慰による射精の経験が足りていないことが分かってきた」と話す。

こうした現状を受け、男子中高生への性教育を行っている今井医師は、令和の思春期男子を取り巻く環境は、親世代とは全く異なると強調する。

一つには、インターネット上にあふれるアダルト動画の影響だ。「刺激の強い動画を簡単に視聴できるため、そうした動画でないと性的興奮が得られず、女性と性交ができない、性交できても射精ができない身体になってしまう」。

一方で、最近の子供たちは友達同士で性的な話題を避ける傾向もあると指摘する。

「性や恋愛に興味がなく、自慰の仕方も分からないまま成人してしまったり、手を使わずに壁や床にこすりつけるなど、自己流で誤った自慰の仕方を身につけてしまったりする子もいて、膣内射精ができなくなるケースも増えている」

男子の射精は、女子にとっての月経と同じくらい大切な身体の仕組みで、体得するには正しいやり方で訓練する必要があると今井医師は語る。

「学校も保護者も、女子に月経の仕組みやケアを教えないことはない。なのに男子に対して、射精を自然に身につけろというのは大人の無責任だと思う。将来不妊に悩むカップルを減らすためにも、思春期に性に関する正しい知識や身体の仕組みを学ぶ機会は必要です」

人生の節目節目に、身体的、精神的な影響をもたらす「性ホルモン」の作用に注目が集まっています。性に関する科学的な知識をもつことは、豊かな人生につながります。家庭で、職場で、学校で-。生物学的に異なる身体的特徴をもつ男女が、互いの身体の仕組みを知り、不調や生きづらさに寄り添うことを目指した特集記事を随時配信していきます。