家族がいてもいなくても

(711)怪しいものではございません

イラスト・ヨツモトユキ
イラスト・ヨツモトユキ

晩秋から立冬へ。

山々が枯葉(かれは)色のグラデーションとなって裾野へと広がってきた。

銀色のススキの穂も、今やまっ白になって風に揺れている。

そんな様子を眺めていると、つい感傷的になる。

人生を振り返って、失った人たちのことを思い出し、悲しくなったりもする。

そんなふうに、4年近くも1人でふらふらしていると、周辺に自分好みのヒミツの場所がいろいろとできてくる。

勝手に「春の道」「夏の道」…などと名付けているのだけれど、ここのところ、日に1回は、どうしても通りたい道に出会ってしまった。それを私は新しい「秋の道」と定めてしまっている。

木々にすっぽりと覆われたその道を入っていくと、不意に視界が開けて、肩を寄せ合う小さな集落が目の前に現れたりする。それはまるで絵本のように愛らしい景色なのである。

さらに奥へと入ったところには、かなり広い紅葉園がある。

紅葉の苗木を育てている林で、苗木と言っても2メートルほどの木が多い。それらが赤く染まっていく様子を最後まで見届けたくて、せっせと通っている。

今年の秋は、気温が乱高下したせいか、緑のままの葉っぱの上に赤く塗り重ねたように染まっている木々が多い。

それがお天気や時間差でなんともあやしげな雰囲気を醸し出していて、妙にそそられてしまう。

おかげで、晴れた日も曇った日も、雨の日までも見に行きたくなってしまう。

そこは、見通しはよいけれど、車がすれ違うには難しそうな一本道だが、他の車とすれ違ったことは一度もない。

ところが、先日、その道に入ろうとしたら、前に黒塗りの車が止まり、黒い背広の男性数人が、物々しい雰囲気で立っていた。

私の車が近づくと、中の1人が「警察です!」といきなり手帳を掲げたので、なにごとかとびっくりしてしまった。

その刑事さんに聞かれた。

「このあたりで、不審な車を見ませんでしたか?」と。「見たことはないけれど、私はこの先の紅葉を見に行くところで…」と言うと、すぐに通してはくれた。

通してはくれたけれど、通報があった不審な車って実は私の車のことだったりして…なんて思った。今や、車でふらふらするだけで怪しまれる、そんなご時世のような気がしないでもない。(ノンフィクション作家 久田恵)