ビブリオエッセー

深遠な問いたどる生物学の旅 「WHAT IS LIFE? 生命とは何か」ポール・ナース著 竹内薫訳(ダイヤモンド社)

少年時代に見た黄色い蝶の美しさに魅せられ、著者が生命への関心を初めて持ったことから話は始まる。

ポール・ナースは英国の遺伝学者で細胞生物学者。生家は貧しく、大学進学を後回しにビール醸造所で働いた。その後、ビール酵母の細胞周期の研究が高名な学者に認められて研究生活が始まり、後のノーベル医学・生理学賞受賞につながる。本書は初の著書で、私は最初に原書で読み、翻訳が出版されて再読した。

生命とは何か。書名に「とてつもなく大きな問い」を掲げ、「細胞」「遺伝子」「自然淘汰による進化」「化学としての生命」「情報としての生命」と5つのステップをたどってゆく。

生命の基本は細胞。その膜で外界と隔て、内部には遺伝子を持つ核や生体内エネルギーのATPを生むミトコンドリア、各種タンパク質合成の小胞体などがあり、それぞれが一大化学工場のようだ。遺伝子は生体全体の細胞増殖、機能分化を制御する遺伝情報の塊である。

受精卵という1つの細胞から細胞の増殖、分化を繰り返し、子孫誕生となり、両親の形質を継承する。まれに突然変異が起こる。それが自然淘汰(適者生存)という厳しい洗礼を受け、生き残れば新種の誕生となる。

数々のエピソードも興味深い。著者は有名大学学長への招聘を受けた時、出生証明書を取り寄せ、自らの出自の秘密を知る。それは両親についての驚くべき事実だった。

生命は単細胞から始まり、果てしない進化を経て、その最先端に人類がある。あらゆる生命はつながり、一本の「生命の木」となるのだ。

LIFEには人生や生涯の意もある。著者は生命の本質を述べながら、自らを語り、「人生とは何か」も教えてくれる。

兵庫県西宮市 安藤博信(80)

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