鑑賞眼

イッツフォーリーズ「魍魎の匣」 ミュージカルの可能性示す 

中禅寺秋彦(小西遼生、左)と美馬坂幸四郎(駒田一)の対決は見ものだ(岩田えり撮影)
中禅寺秋彦(小西遼生、左)と美馬坂幸四郎(駒田一)の対決は見ものだ(岩田えり撮影)

オリジナルミュージカルとは聞いていたが、これほどの意欲作が見られるとは思ってもみなかった。脚本、演出の板垣恭一とミュージカルカンパニー「イッツフォーリーズ」は、ミュージカルの可能性を改めて示してくれた。

「魍魎の匣(もうりょうのはこ)」は、ご存じ、京極夏彦のミステリー小説。とにかく分厚く、登場人物が多く、さまざまな事件が折り重なっていく。戦後の復興が進む昭和27年という時代背景、警察から私立探偵、謎の研究施設から新興宗教まで絡む、盛りだくさんな設定。これまでアニメ化や映画化もされてきたが、ミュージカルで初めてこの作品に触れる観客には、複雑で重厚な物語が理解できるだろうか。

そんな不安は、冒頭の「不思議の世界」(小澤時史作曲)で一気に吹き飛ぶ。歌詞にある難しい言葉や鍵となる言葉をスクリーンに映し出すことで、本のページを目で追っている気分になり、世界観に没入できる。イッツフォーリーズの劇団員によるコロスのそろった動きと歌声は、本のページをめくる手のようだ。

客演と劇団員を上手に配したキャスティングもいい。14歳の少女、柚木加菜子を演じる劇団員の徳岡明と、楠本頼子を演じる熊谷彩春のコンビは、みずみずしく美しいミュージカル歌唱で観客を物語の世界へと引き込む。柚木陽子役の万里紗は美しさの中に情念をのぞかせ、〝犯行〟の動機に説得力を持たせた。

榎木津礼二郎役の北村諒は劇画から抜け出たような美しさとトリッキーな動きで、観客を飽きさせない。北村と同じく2・5次元舞台で活躍する加藤将は、歌唱に課題はあるものの、孤独の影をまとった久保竣公を好演。優しさと狂気の此岸と彼岸を軽く飛び越えた雨宮役の浅川仁志も印象に残った。

何より立ち姿から声、たたずまいまですべてが京極堂(中禅寺秋彦)のイメージそのものの小西遼生は、培ってきた経験を生かし、聞き取りやすい甘い歌声で客席を魅了。劇団OBの駒田一演じる美馬坂幸四郎との対決シーンは、気迫あふれる力強い歌声がぶつかり合い、引き込まれた。