鑑賞眼

森下洋子舞踊生活70周年祝賀記念会 究極の「白鳥」

森下洋子(中央左)と度々ペアを組んできた堀内充(中央右)との共演も (©エー・アイ 撮影:檜山貴司)
森下洋子(中央左)と度々ペアを組んできた堀内充(中央右)との共演も (©エー・アイ 撮影:檜山貴司)

舞踊歴70年、という前人未到の境地を開き続けるバレリーナ、森下洋子。その節目を祝う一夜限りの公演で、究極の「白鳥」を見た。

森下の公私に渡るパートナー、清水哲太郎がこの日のため、すべて新作の小品で構成した舞台は、序詩から始まって15の「劇」という設定だ。「森下ファンの母子」という3人が、狂言回しとして登場し、森下の足跡をたどりつつ、今の森下の踊りを見せていく。それはさらに、日本の舞踊史を支えた先人たちへのオマージュへと広がっていく。

中でもサン・サーンスのチェロの名曲に合わせ、森下が踊った「白鳥」に、心を揺さぶられた。この曲でバレエ・ファンの誰もが想起するのは、ミハイル・フォーキンがアンナ・パブロワのために振り付けた名作「瀕死(ひんし)の白鳥」だ。

新作「白鳥」での森下は、舞台奥で一人、すっくと立っているだけで白鳥だった。下半身は動かさず、上半身だけをチェロのソロに合わせゆっくりと動かすのだが、そのまろやかな腕の羽ばたき、顔や手の表情だけで白鳥そのもの。要するに余計な動きを一切せず、そぎ落とした動きと、洗練されたポーズだけで表現する、究極の踊りだったのだ。

森下は、3歳でバレエを初めてから70年間、来る日も来る日も稽古と公演を重ねてきた肉体をさらけ出す。むき出しになった肉体は、年齢を重ねた白鳥だが、それが力強く美しい。「瀕死」は傷ついた白鳥が生きようと必死にもがき、息絶える物語だが、森下の「白鳥」は逆に力強さを増し、最後には〝不死鳥〟のように天空へと両手を伸ばす。国内外で「白鳥の湖」の全幕を踊り続けてきた、今の森下だけが表現できる「白鳥」である。