17日の日米韓外務次官協議は北朝鮮問題だけではなく、中国による国際秩序への挑戦を念頭に置いた「自由で開かれたインド太平洋」に向け、日米韓の連携強化をアピールする場となるはずだった。だが、前日に韓国警察庁長官が竹島(島根県隠岐の島町)に上陸し、共同記者会見は見送られた。バイデン米政権は中国に対抗する上で同盟国との連携を重視するが、その最中に行われた韓国側の挑発に、日本として黙っていることはできなかった。
松野博一官房長官は18日の記者会見で、韓国警察庁長官の竹島上陸について「到底受け入れることができず、韓国側に強く抗議をしている中、(日米韓外務次官の)共同記者会見を実施することは不適当と判断した」と説明した。外務省幹部は「こんな状況で何食わぬ顔して予定通りやれば、韓国に対して誤ったメッセージになる」と語る。
日本政府は当初、次官級協議について、中国に対抗する同盟国・友好国のネットワークに韓国を引き込む一環と位置づけていた。日米韓協議はこれまで、北朝鮮問題をめぐる協議に大半の時間が費やされていた。韓国側は中国の反発を警戒しており、日米韓協力の対象をインド太平洋全域に広げる障害となっていた。
だが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が5月にバイデン米大統領と会談した際の共同声明では「安全で繁栄し、活力あるインド太平洋地域」を明記した。対中国で同盟国との連携強化を図るバイデン政権に配慮した形だ。
これを受け、7月の日米韓次官協議では朝鮮半島情勢だけではなく、従来以上の時間を使って中国を含むインド太平洋地域の課題も協議した。韓国では来年3月に大統領選が予定されているが、日本側は「文政権ですら日米韓を重視するバイデン政権にお付き合いした。誰が大統領になってもこの路線は続く」と見通す。
今回の次官協議はこの勢いを維持し、日米韓の対中認識をすり合わせる場とするのが日米の狙いだった。協議では、中国が統一に向けた圧力を加える台湾情勢も話し合われた。
だが、韓国の対中姿勢に関する疑念が消えたわけではない。次官協議の前日に韓国側が竹島上陸をぶつけてきたことで、日米韓の対中連携は楽観できないことを改めて示した。外務省幹部は「韓国の日米韓に対する本気度を疑わざるを得ない」と怒気を込めた。(杉本康士)