朝晴れエッセー

ミントキャンディー・11月17日

ミントキャンディーをなめると、ある出来事を思い出す。

配送の仕事をしていて、トラックを止めて降りたら、通行人のひとりが近寄ってきた。何かを尋ねられるのかな、と思って身構えた。

60代と思われる男性は「がんじゃなかったんですよ」と弾む声で言った。

怪訝(けげん)な顔をする私に、男性が興奮気味に話す内容をまとめるとこういうことらしい。

胃に違和感を覚え病院を受診した。その結果を聞きに来た帰り道だった。本人は覚悟していたようだが、がんではなかったと知り安堵(あんど)して、誰でもいいからこの喜びを伝えて聞いてほしかった。

男性のうれしそうな顔を見ると、見ず知らずの人だけれど、私も何だかうれしくなった。

突然声をかけて申し訳なかったと、別れ際に何かを手渡された。それがミントキャンディーである。

幸福感いっぱいの男性を見てこんなことを思った。

なぜ、がんではない自分にあの幸福感がないのだろうか。失って知る幸福とはこのことか。そうか、そうなんだ。こうして健康で働けることだけで幸せなのだと、気がついた。

頂いたミントキャンディーを口に含んだ。爽やかな味と不思議な幸福感が口中に広がった。

仲川友康 59 東京都杉並区