朝晴れエッセー

小さな知恵と大きな知恵・11月16日

ある百貨店に入っている和菓子屋は大人気で、いつも列が途切れない。

さらに、新型コロナ対策で店員と客の間にビニールの仕切りができ、マスク着用と相まって注文に時間がかかっている。

そうでなくてもわれわれシニアにとっては、百貨店の喧騒(けんそう)が会話を阻む。当然、列の動きも鈍くなる。大好きな店なので注文を思案する時間も楽しく、並ぶことは苦にならないが、必死で対応されている店員さんが気の毒でならない。

そもそも大声で注文を繰り返し確認する状況は、マスクとビニール越しとはいえいかがなものか。

ふっと「並んでいる間にメモを書いて渡せばいいんじゃないか?」と思いついた。

財布の中に他店のレシートがあったので、裏に手持ちのペンで「おはぎ2個、水羊羹(ようかん)3個」と書いて渡す。あとは目のほほ笑みさえあれば注文はスムーズ。

こう書くと「お店で注文票を準備すれば?」と思う人がいるかもしれないが、それではペンの消毒や書くための台などの管理にまた店側の仕事が増える。

何のことはない、手持ちのペンと紙切れで事足りるのである。さまざまな公共施設の受付に「筆談でお応えできます」という掲示が出ているが、障害のある人のためだけではないと気づいた瞬間だった。

会話は大切だが、制約がある中ではその場に合った工夫を個々ですればいい。きっと先人たちもあらゆる禍の下、個人の知恵で笑顔を取り戻したに違いない。

大きな知恵は国のお偉いさんたちにゆだねるしかないのだけれど。

田房加代 62 兵庫県尼崎市