ビブリオエッセー通信

世界文学の巨匠 ずっしり重い

1冊の本が届いた。『つん読を読む―書評集』とある。著者は大阪・堺市の池渕修さん。9月のビブリオエッセー月間賞に選ばれ、今月12日にはドストエフスキーの『悪霊』について書いた。

「この書評集は眠っていた本たちへ鎮魂歌のつもりでまとめました」

会社を退職し、買いためた本の山から1冊ずつ精読を続けてきたという。いわば人生の読書歴の開陳。中上健次や大江健三郎のほか、カフカにフォークナー、ナボコフと世界文学が続き、特にサリンジャーとカポーティがお気に入りのようだ。

「記録のつもりであらすじもまとめてきたんです。A4判のノートが100冊以上たまりました」

いかに読むかと登山口を探すため言葉にこだわったそうだ。そこで吉本隆明の『言語にとって美とはなにか』やソシュールの『一般言語学講義』など重量級の名著をひもといた。本の冒頭には大江の『懐かしい年への手紙』からこんなセリフを。

「どういうわけか懐かしい本に眼がゆくんだよ。以前よくわからなかったことを解決しなければ、死ぬまでそのままだと惧れるせいかね?」

とりわけドストエフスキーは何度も読んだ特別な作家だという。

「大学時代に神田の古本屋で見つけたのが『貧しき人びと』や『二重人格』の入った1冊で、ほぼすべてを読みましたが五大長編は厳格な山門を見上げるような存在でした」

11月11日はドストエフスキーの誕生日。今年は生誕200年の記念日だった。ビブリオエッセーでは以前に『カラマーゾフの兄弟』を掲載した(2019年12月9日)が、この文豪は小説の中身も短い字数でまとめるのがそもそも難しい。今回の『悪霊』まで投稿はなかった。

『悪霊』もそうだが『カラマーゾフ』のときもエッセーは冒頭の聖書の一節から始まっていた。筆者の長野美樹さんは「大審問官」の場面に言及し、イワンの問いを自問してきたと書いていた。それは神の存在について。やはりずっしり重い。

今、NHKEテレの「100分de名著」でも『カラマーゾフ』を放送しているがロシア文学者の亀山郁夫さんは魂の救いや父殺しの深層を語り、その謎に迫っている。文豪は永遠の疑問符を後世に残した。

先ほどの池渕さんとはドストエフスキーの翻訳者でも話が弾んだ。

「米川正夫さんの訳が印象に残っていますが江川卓さんや工藤精一郎さん、原卓也さんとこちらも大家のそろい踏みですね」

作家の佐藤優さんは『生き抜くためのドストエフスキー入門』に「アカデミズムとの距離」で翻訳の読みやすさが異なると書いていた。とはいえ決して読みやすくはない作家である。くれぐれも。(荻原靖史)