脳を知る

糖尿病で起こる難治性の疼痛 脊髄刺激療法が有効

厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」の報告書によると、成人のうち糖尿病が強く疑われる人は1196万人、可能性を否定できない人は1055万人、合わせて糖尿病リスク者は2251万人いるとされています。高血圧の患者は約1000万人、認知症患者数は約600万人なので、ここからも糖尿病患者がいかに多いのかがわかります。

糖尿病という名前は皆さんもよくご存じだと思いますが、簡単に説明すると体の組織を動かすエネルギー源であるブドウ糖が細胞内にうまく運ばれず、血液内に留まってしまうために起こる病気で、ホルモンの一種であるインスリンが不足し、うまく細胞に作用しないことで起ります。

糖尿病の合併症の中で3大合併症といわれるのが「糖尿病性神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」ですが、その中でも「糖尿病性神経障害」は、最も頻度が高く、かつ早期から起こる合併症で、手足に痛みを起こします。糖尿病患者が手足にしびれるような痛みを感じる場合、糖尿病性神経障害による難治性疼痛である可能性に注意が必要です。

57歳男性です。長期間コントロール不良の糖尿病に対してインスリン治療を受けたところ、以前から手足の先端部にあったしびれ・疼痛がさらに悪化しました。痛みに対する服薬などの内科的治療やペインクリニックでの治療はいずれも無効であり、特に足の裏のしびれと痛みは強く、痛みのために歩行が困難な状態です。この患者さんの難治性疼痛に対し、脊髄刺激療法という手術を行いました。

脊髄刺激療法とは、背骨の隙間に針を刺して、そこから電線を入れて脊髄の硬膜の表面に置き、体に埋め込んだ小さな刺激装置から電線に電気を流し脊髄を刺激します。痛みの信号を電気刺激でブロックして脳まで伝わらないようにする方法です。局所麻酔でできる小さな手術、電線や機械を体内に埋め込むだけで脊髄や神経などの組織は一切損傷しない、もし必要がなくなれば取り去ることができる、などがこの治療の利点です。

さて患者さんの足の痛みはほぼ完全に消失し、普通に歩けるようになりました。また両手の痛みに対しても同じくこの手術を行い、痛みは消失しました。

難治性疼痛とは通常の治療では効果がなく、痛みが長期間続き生活の質にも大きな支障が出ている状態のことをいいます。難治性疼痛は原因もさまざまで治療法も異なりますが、糖尿病性神経障害による難治性疼痛には脊髄刺激療法が有効です。(済生会和歌山病院副院長 兼脳神経外科部長 小倉光博)

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